興味深げに大きな瞳を木田に向けているマリアには手を挙げて挨拶すると、彼女は無言でにっこりと微笑んでくれた。
荷物といっても、着替えと洗面用具、それに害虫対策用に準備してきた害虫忌避剤、個人用の常備薬程度なので整頓するのに時間はかからない。医療援助に必要な物品は全て現地で用意されていると聞いている。
部屋にはシャワー室が備えられ、ベッドと小さな机、衣装用整理棚、扇風機が用意されてあった。東と北に窓があり、北の窓からは深い緑の谷の向こうに藍色の海を僅かに望むことができた。
六時の夕食までは未だ時間があったので、着替えもせずベッドに身を横たえていると、いつの間にかうたた寝してしまったらしい。
「へえ、フィリピンね。いいかも知れないよ。最近、父さん元気がないし。少し老け込んだみたいだったから、おれも心配だったんだよ。まあ、そうして新しいことに挑戦してみようという気になっただけでも良かった。おれは賛成だね」
妻の三周忌の法要の後で、久しぶりに顔を見せた子供たちに、今度NGO活動を手伝いにしばらくフィリピンに行こうと思っていると告げたとき、息子の健一は、喪服のネクタイを首から外しながら即座に賛意を示した。
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