【前回の記事を読む】客引きの嵐を抜け、不安な車に揺られ…異国の坂道を登った先に姿を現した白い宿舎

1 異郷の島へ

「思ったより、あ、いや、こう言っては何ですが、フィリピンの山奥と聞いていたので……予想以上に清潔で綺麗なので驚きました」

と言う木田の言葉に、彼はにやっと笑うと、

「ここですか? 綺麗にしておかないと、なかなか日本人は来てくれないんです。それに、山といってもこの辺りは未だ山の入口で、周囲には西洋人の別荘も沢山あるんですよ。不便なんですがね。奴らはこういうところが好きらしい。

小金を貯めて早めに仕事をリタイアした連中が、現地の女と住んでる家が沢山ありますよ。ドクターもどうですか。こんなところでのんびり暮らすというのは。長生きできますよ、ははは」と、

吉田はさっきのビールに自分のアジトに戻った気安さも手伝ってか、すっかりリラックスした様子でソファーに深々と座り直した。

「考えてみましょう」

そう答えて、木田はマグカップに手を伸ばした。コーヒーは甘くてあまりコーヒーの香りはなかったが、それでもその甘さが長旅に疲れた身体には意外なほどに美味しく感じられ、嬉しかった。

「うわー、甘い。甘過ぎませんか、このコーヒー」と、一口飲んで吉田は顔をしかめ、何やら現地の言葉でマリアに苦情を言った。

向き直った吉田は、今度は真顔で木田に語りかけた。