神野 アニメや外画での芝居感というのは、その昔、新劇の大御所の方々、まぁ今の大御所といわれる方々の先輩にあたるような役者さん達がつくった形なんだよね。それが一般にも浸透していて、支持もされている。

それは、テレビドラマや映画で観る芝居感とは全く違うもので、初心者が芝居をつくる段階では別ものだと思ったほうがいい。だけど、これを混ぜて教えてしまっている人や学校が多いんだ

清水 混ざると、駄目なんですか?

神野 駄目だね、理論も美意識も全く違う。一つの駄目な芝居に対して、全く逆方向の二つのアドバイスが存在することになる。逆だということがわかればまだいいけど、少なくとも芝居を教わっている人にとっては、わからなくなるケースのほうが多いんじゃないかな。

新劇をベースにしたお芝居の中での“ナチュラル”と、リアリズム演劇でのナチュラルを追求した演技では、求める“ナチュラル”が全く違う。でも、指導する人は「もっとナチュラルに」としか言えないし、言わない

清水 よくわからないんですけど、何か稽古の途中によくそんなことを言われたような……

神野 「もっとナチュラルに、自然に」と言われて頑張ってやっても、もともとリアリズムの人がナチュラルにやったら、どんな芝居をやっても違うって話になってしまう。声優になりたいなら、リアリズム系のお芝居からはいったん離れないといけない

清水 えっ、ちょっと待ってください。ドラマや映画で観ているあのお芝居と声優のお芝居は違うってことですか?

神野 もちろん違う。いや、そう言いきってしまうとそれも違うかな……。一つの作品を観ている中では、演者はみんな近い芝居感になる。相手もいるし、演出もあるから当然だろう。だから、作品を観ている中では、海外ドラマの吹き替えであろうがテレビドラマであろうが、演者の“本来持っている芝居感”なんてものはわからない

清水 はぁ……

神野 芝居の基本なんてものは、いくつもあって、教える人によって最初から言うことが違う。

そんなものなんだが、とにかくテレビドラマや小演劇を中心に出ている俳優さんと新劇の舞台俳優や声優とでは、演技の基本的理論が大きく違うんだ。日本でプロの俳優を目指すと必ずどっかでこの話にぶつかる。学校といわれるところで勉強しておいてほしい話なんだけどね

清水 神野さん、それってプロの声優さんはみんなご存じの話なんですか?

神野 理論的にわかっていなくても、感覚的にはみんなわかっていると思う。預かりの最初のレッスンでも相当言ったつもりなんだけど、伝わらないんだなぁ、これが。いい芝居には一つの方程式が存在する、そう考えたいのもわかるんだけどね

清水 演劇部の時もワークショップでも全然言われなかったです。私、通うとこ間違えたんですかね?

 

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