【前回の記事を読む】声優には仕事ごとにそれぞれマネージャーがいるが、マネージャーによって演者に求めているものが違ってくる

一 声優になるとは、どういうことなのか

一‐一 声優になるとは、どういうことなのか ~清水悠子~

清水 神野さん、単刀直入にお伺いするのですが、私は所属になれるでしょうか?

神野 それは、俺が個人的に決められる話じゃない。会議で決まる。全員そうだし、毎年のことだ

清水 それは聞いています。私は、神野さんの意見を伺いたいんです

神野 俺の意見は何の保証にもならないし、本当にわからない。査定会議は何が起こるかわからないんだ、本当に……

清水 わかっています。でも、何か保証に近いものがほしいんです

神野 「私はプロの声優になりました」っていう免許証でもほしいのか

清水 そう、あっ……でも正直所属にならないと何の自信も持てないし、誰にも言えないし……

神野 言っておくが、俺がここで「所属になれる可能性は高い」とか言ったところで、プロの声優になれたわけでも何でもない。仮に所属になれたからといって売れるわけでもないし、所属=一人前の声優になれた、というわけでもない。それはわかっているよな?

清水 わかっています。でも、とにかく何かほしいんです

神野 所属になって、ホームページに名前が載って、それで両親に報告したい、そんなとこか

清水 そうです……やっぱり神野さんには全部お見通しですね。今の状況じゃ、私は両親には言えないです

神野 言っておくが、所属になっても給料が出るわけじゃないし、いったん売れたからといって長続きするかどうかはわからない。そういう世界なのはわかっているよな?

清水 それは、私はわかっています

神野 プロになったかどうかは、所属になったかどうかではないし、ちゃんとギャラをもらえるようになって、アルバイトもしなくていいくらいになったら、それがプロだって言う人もいるけど、俺は違うと思う

清水 えっ? じゃあ、神野さんが言うプロの声優って何なんですか?

神野 人を喜ばせることができる役者になったかどうか、それだけなんじゃないかな。もちろん仕事がもらえる声優、世の中から必要とされる役者になるってことが、結果として必要なのかもしれないけどね。稼げるならプロになる、両親にも言う、食べていけないのならここで辞めて両親には何も言わない……そんな甘い決意じゃ続かないんじゃないかな

清水 そんな……追い込まないでください。うちにはうちの事情があります