神野 パワハラみたいに聞こえるといけないのだけど、現実を隠さず言うとそういうことかな。稼げない場合はこの道に行くことが許されない、そういう家庭事情で、自分もそう思っている……だから、素質があるかどうかは判断してほしいっていうのはあると思うが、素質があったって売れる保証はない

清水 神野さん、そういうところは本当に厳しいですね。でも、私にそう言ってくださるってことは、私には可能性があるってことですよね?

神野 可能性はみんなにある。もちろん清水にもある。飯が食えるかどうか、誰しも考えることなんだが、そこをあまり考えない人のほうが稼げるようになるのが芸の道ってもんでね

清水 どういうことですか?

神野 毎年している話だが、所属で残ることばかりを考える、仕事ができるようになるにはどうすればいいんですか?ってよく言う子ほど仕事が無いものなんだ。芝居が好きで、何も考えていないように見える子ほど仕事がある

清水 神野さんがよく言う、仕事から逆算するなってことですか

神野 そういうことなんだろうなぁ。一年目から僕らサラリーマンでは考えられないような金額を稼ぐ子がいるが、そういう子ほど稼ぎのことは考えていない感じがするんだ。仕事はみんなやりたいわけだし、所属にはなりたい、そう思っている。ただ「仕事がしたい」「稼ぎたい」「声優という肩書がほしい」と言っている人ほど頑張っても所属にはならない、そういうものなんだ

清水 私は……お芝居好きです。両親が反対しているのをわかってここに来ました。どんなに反対されても続けます

神野 うーん、じゃあ、大丈夫かな

清水 本当ですか!? 私、所属になれますか

神野 だから、俺の一言で所属が決まるわけじゃないって。ただ、その気持ちは一番大事だって話。両親には早く事実を伝えることだ

清水 あー、結局そこか。神野さんは厳しいなぁ

神野 大事なことだ。家族に嘘をついて芸の道を続けても大成しない

清水 はい……

両親には正直に言いなさい……そんなことを言うつもりではなかった。

神野としては、清水悠子が真っすぐ芸の道に向かってくれるにはどう言うべきなのか、それだけを考えていた。

声優の学校や養成所を卒業したら声優になれるというものではない。芸の道に入ること、そのことを楽しみに感じて、覚悟をもって決断したかどうかなのだ。事務所の研究生にまでなったのならば、そのことはもうずっと前に決断しているはずなのだが……。

 

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