「昔のように、みなが箱の中に手を伸ばしていっせいに輪を取り出すには、いささか窮屈(きゅうくつ)であろう。ここは、生まれた順とは逆に、第三王子から順番に輪を取り出してもらおう。では、エリオット、箱の中の輪を一つ取り出してごらん」

第三王子のエリオットは箱の前に進み、布の下から箱の中に手を入れました。慎重(しんちょう)に手探りするようにして輪を一つ選ぶと、一気に取り出しました。

「王さま、私は黒の輪です」

エリオットは、「アジア」を旅して“世界一強いもの”を探すことになりました。

「エリオット、最初に輪を引いたお前が、一番遠くに旅することになったな。

アジアというところをその目でしっかり見て、お前が世界一強いものと思うものを探し出してくるがよい」

王さまは、少し心配な様子でしたが、エリオットの輝く瞳を見て安心し大きくうなずきました。

「次は、カトリーヌ」王さまが、よびました。

第二王女のカトリーヌが取り出したのは、黄の輪でした。

カトリーヌは、「アフリカ」を旅して“世界一強いもの”を探すことになりました。

「王さま、私は……」

とカトリーヌは言いかけて、不安そうに王さまを見ています。

アフリカは、アジアより近いとは言え、まだまだ知らないことも多い大陸です。

「カトリーヌ。お前がアフリカに行くのだな。

その耳で多くの人々の話を聞き、その目でさまざまなものを見て、お前が世界一強いものと思うものを探し出してくるがよい。くれぐれも、健康には気をつけるのだぞ」

王さまは、少し心配な様子でしたが、カトリーヌの落ち着きを取り戻した目を見て安心し大きくうなずきました。

次は、第一王女のアンジェラが緑の輪を取り出し「南北アメリカ」を旅して“世界一強いもの”を探すことになりました。

「私、一度アメリカ大陸には行ってみたかったのです。今からワクワクします」

アンジェラは、嬉しそうにこう言いました。

王さまは、にっこりと笑顔を見せましたが、すぐに真剣(しんけん)な表情に戻り、

「アンジェラ。その身体(からだ)全体で新世界アメリカを感じ、受け止め、そして、お前が世界一強いものと思うものを探し出してくるがよい。ただし、ハメを外すことなく、常に行動は冷静であるように」と言いました。

「はい、王さま」

アンジェラは、王さまの言葉を心に深く留めて返事をしました。

 

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