マムシや大蔵種材は、彼等の使用する武具や武器の解析の任にも、刀を製作する作業場建設と同時並行で当たっていた。娘の百足は、火力が出る炭の製作に勤しんでいた。

彼女は、母や、他の女性の様な、朝早く起き、火起こしから始まり、飯の準備、水汲みから洗濯。

それで半日が終わる様な変化の無い、〝卒の無さ〟と安定していて変わらぬ『働き』、だけが求められる生活をする事は、耐えられなかった。

材質や、燻蒸の差異で変わる〝炭〟の火力、その経験から得られる、日々新たな発見と、それ以上の失敗を繰り返し、頭を使い、工夫の結果が出るような作業が、彼女の好みであった。

故に、父からの仕事の依頼は、彼女の性に合っていた。

父、マムシも、この娘の特性を理解していた。

しかし、彼女も、自身のその様な作業に『文句も言わず』付き合う、都からの貴公子、源忠賢の存在が〝普通の女〟の様に、気になりだしていた。

故に、彼女は、彼の前で、無闇に上半身を開けたりすることを憚る様になっていた。

しかし、その様が、益々、忠賢の〝普通の若い男〟の持つ〝好奇心〟をそそっていた。彼等の健全な様子を、周囲は、面白おかしく、しかし温かい目で見守っていた。

ある日、百足が、炭焼き小屋に向かう道すがら、野犬に襲われそうになった。忠賢は、咄嗟に彼女の前に立ち、狩衣の広がった左の袖を囮に犬を避け、抜いた太刀で、一刀の下、此の野犬を成敗した。

その様は、炭の原料である、木材の束を持つ必要のない貴公子『故』とも言えたが、周囲をして、忠賢が、父と共に都から、下って来た、単なる〝雅な貴公子〟では〝無い〟と云う認識を百足は元より、大宰府の地侍や郎党、舎人共全てに、認識させ、固めさせた。

若干、彼の太刀は、刃毀れを生じたので、マムシの元へ太刀を持ち、修理を依頼したが、マムシも娘が、この男に少なからず好意がある事を見逃さなかった。故に、彼は、自身の小太刀を、忠賢に修理を終えるまでの代用品として貸し与えた。

又、此の経緯を聞かされた高明は、ほくそ笑みながら、頷いたそうである。

 

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