介護職について間もない頃、私はなにもできない女だった。就職氷河期でやっとありついた仕事は、そこそこ大手企業ではあったが、人員削減、人員削減とやらで私の配属された地方の支社には同僚というものがいない。同僚どころか先輩もいない。
経理事務という形で入ったが、同じ管轄地域の某県に電話して仕分け伝票の起こし方を聞いて仕事を覚えるありさまだった。決算期、思い出したくもない。所長は「じゃあねえ」と言って帰ってしまい(恐ろしいことに事実である)、一人で倉庫のパソコンの在庫を数えたり、資料を綴ったり、段ボールの中に書類をぎゅうぎゅうと詰めた。
朝の4時まで働いた。車で帰って、黄色信号でアクセルを踏み込んだところをパトカーに見つけられて「赤信号でしたよ、今」とさんざ詰問されたが「黄色です」と100回くらい言ってみたら解放された(いや実は赤だったかもしれない、と20年以上経ったので認めてもいいかもしれない)。家に帰ると朝の7時だった。
体が壊れてしまうと思い、転職した。近所の工務店の事務職をすることになった。よかった、安心して仕事できると思った3日目に「女性は結婚したら寿退職することになっているのよ」とお局様に告げられて唖然とした。早く言え、と思ったが時すでに遅し。なんだよなあ、と思いながら仕事を覚えた。