【前回記事を読む】「そんなことしたら、当行の市場での信頼と名声は、地に落ちてしまう」親友の弁護士の悪知恵に、思わずそう返すと…

2. Global Octane(ガソリン添加物)プロジェクト案件

「他に方法があるかい?」、答えを見つけられないまま、更に時が流れる。腹も空いて来たので、下の階に下りてウィンターガーデン迄歩いて、Sfuzziというイタリアンバーで、Squid(イカ)のフリットをつまみにビールを飲みながらの話になった。

「そもそも同社が自らOff Takeになると賛同するか? もしくは、内部規定上なれるか?を確認の上での話だが」と、嫌々ながらの姿勢を示す前置をして。一方で、何で自分ばかりが損な役回りをして泥を被らなければならないのか、という腹立たしさも交えて。

側を通るウエイトレスが運ぶ料理から立ち上って来るカルダモンの香りを、気分を変えるべく必死に嗅ぎ取ろうとしながら、「その前提が解決したとして、当行としては、全てをdisclose(開示)して同社がoff takerになる事での完工保証の解除と、同社がそれを前提にoff takerよりワンタッチで外れることを、夫々参加行に誠意を以って説明して解決を図るしかないのかネ?」と、溜息交じりに言葉を吐いた。

「実態的な与信上のリスクは無いのだし、当行のreputation(名声)や能力に傷が付くことも最大限回避するべく、誠意を以って、説得に訪問して回るしか?」と付け加えて。

翌日オフィスに戻って、部下の米人の担当者達に話すと、「そんなことしたら、この銀行の市場での信用喪失に繋がって、もうArrangerやAgent業務はできなくなるかもしれない。折角皆で案件を一つ一つ、Agentとして美しくまとめて築いた地位を失うことになる」と強く懸念を示す者も多かったが、最終的に納得してくれたことには感謝した次第であった。

同商社との関係を所管する行内の営業担当部は、オロオロするだけで「何とかしてくれ」と叫ぶばかりなので、そこはスキップして、この秘策を、東京に戻った同社化学プラント部長に個別に電話で示し説明した。

電話では相変わらず不機嫌で怒っていたが、他に選択肢が無いと理解すると、「ワンタッチでも off take契約を結ぶことは社内規定上権限逸脱になる。その上、出資額以上のリスクをとることを禁じる条件が付されているので、社内決裁を取ることは不可能」と。