会社員のしがらみってやつか……。でもここで俊雄さんに踏ん張ってもらわないと、悠希さんは引く気ないみたいだし。あ――そうだ、今日は大事な事を訊くんだった。
「……ねぇ、彼女と関係を持ったの?」
「え?」
「関係を持ったのかって訊いてるの!」
「関係? どういう意味?」
俊雄さんはキョトンとした顔をしている。
「肉体関係を持ったのかって事! 悠希さんも父親もそういう事をほのめかしていたよ」
「それは……」
俊雄さんが俯く。
「シたの? ちゃんと答えて!」
「……」
彼の沈黙は肯定だと言う事を示していた。長い付き合いだから分かる。
シたんだ……。
「何で? ……何でそんな事ができたの!?」
「……お見合いの夜、社長に一緒の部屋で過ごすように言われて……彼女、服を脱いで迫ってきて、自分の初めてを貰って欲しいって言ってきて……」
「それで!? だからシたの!? そんなの言い訳にしかならないよ!」
ショックだった。まさか本当に肉体関係を持っていたなんて。
「ごめん……関係を持たないと、部屋から出さないって言われ――」
「何で拒絶できなかったの!? どんな事を言われても、それって最後の砦でしょ!? もう……俊雄さんが分からないよ……信じてたのに」
涙が溢れてくる。私は彼氏を寝取られて、相手に別れるように言われて……一体何を信じたら良いのだろう? 悲しいというより、気持ちの行き場がなくて、それが辛くて涙が頬を伝う。
「本当に悪いって思ってる!」
俊雄さんが私を抱き締めようとしたのを、突っぱねる。
「悠希さんを抱いた手で触れられたくない!」
「亜紀……」
「……悠希さんとの事、二人で対策を考えれば何とかなるって思ってたけど……難しそうだね。俊雄さんは悠希さんが相手でも、付き合っていけるんだよね?」
「な、何を言ってるんだ! 僕は亜紀だけが好きなんだ! ……確かに流されて関係を持ったのは悪かったよ。そこは本当に後悔してるんだ。だけど――」
「後悔するような事、して欲しくなかった……」
「亜紀……」
ああ、もう駄目だ。対策なんて取れない。関係を持った以上、責任を問われるに決まってる。既成事実を作らされたのだから。
「私には俊雄さんの行動が理解できない。悠希さんと私、結局どっちを取るの?」
「そんなの亜紀に決まってるじゃないか!」
「関係を持ったからには、相手は絶対に引かないよ。詰め寄られて拒絶できる? 責任を問われたら何て言うの?」
「それは……」
「今日はもう帰って。私も冷静になって考えたいから」
「……分かった。でも、僕は亜紀が本当に好きだから」
そんな言葉さえ、私の心に響かなかった。
次回更新は11月30日(日)、19時の予定です。
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