面談室は、外来診療棟にある。ドアを開けると、見慣れない医師が座っていた。小柄で小太り、眉の太い童顔の男性だ。年の頃は四十代くらいだろうか。
「主治医の坂本です」
「え……主治医は松井先生じゃないんですか?」
「あのドクターはたまたまあの日、救急センターで当直だったんです。今後は私が主治医となります」
まさ子はなんとなく、坂本のほうが人として優しげに感じた。
(あの松井先生がずっと主治医でいるよりはいいかもしれない)
一方、幹雄は単刀直入に本題を切り出した。
「それで、再手術というのはどういうことなんですか?」
「息子さんは、お熱が下がりませんね。お薬では治らないようなので、何か根本的な治療を追加する必要があるかもしれません。血腫は取り除かれているようなので、そちらは心配ありませんが、シャントという手法がきちんと機能しているかは確認したいです。
今日はご両親揃っていますので、承諾いただければすぐにでも手術をしましょう。手術室はあらかじめ押さえてあります。早いほうがいい。お母様もご心配なさっていたMRSAについても、必要であれば予防的な処置をしておきたいと思っています」
まさ子は幹雄の顔をのぞいた。幹雄は軽くうなずき、坂本の方に向き直って「よろしくお願いします」と頭を下げた。
「では」と書類を取り出す坂本に対し、まさ子は思い切って自分の気持ちをぶつけてみた。
「あの、再手術すると、またリカバリー室ですよね。普通の病棟には、いつになったら行けるんでしょうか。その……付き添うにしてもあそこでは……」
「基本、この病院は完全看護ですから、付き添いは不要ですよ」
「でも、あの……」
「完全看護だっておっしゃってるじゃないか」
幹雄は苛立った様子でそう言い捨てると、坂本から渡された書類に次々とサインをしながら続けた。
「心配なのは俺も同じだ。でも、お前のように二十四時間そばにいて、泊まり込む必要はないんだよ。もっと医療を信じろ!」
(再手術すると、その後はまた、あのリカバリー室に入るんですよね)