Kと私は、夜が更(ふ)けて酔いのまわる頃、気が向くと、県境の犬挟峠(いぬばさりとうげ)から蒜山(ひるぜん)高原を抜けて湯原(ゆはら)の街(まち)に出た。そこで飲み直して、湯原の街をハシゴして回った。

そして、最後には決まってダムの下の露天(ろてん)風呂に入った。満天の星空を仰ぎながら、高原の風に身をさらすのは、爽(さわ)やかで心地が好かった。そしてそれまでの下界の生活を見下(みくだ)して、小さな穴倉の中で蠢(うごめ)く虫けらのように思(おも)った。

そんな毎日を三四年繰り返すと、Kはふっつりと来(こ)なくなった。それからまた一年ほどしてやって来て、寂(さび)しそうに「また一人殺したよ」と言って、所在無(しょざいな)さそうに苦笑(にがわら)いした。飲みに連れて回った友達が、肝硬変(かんこうへん)で死んだという。

Kの飲み方はそれほど酷(ひど)いもので、底なしと言われた私も彼には付いていけなかった。とはいえ、そういうKもすでに肝硬変(かんこうへん)になっていて、やがてドス黒い血を口から滴(したた)らし、口に含んだ血の塊(かたまり)を音もなく吐き捨すてた。

そんなある日、薬と言えば、百薬(ひゃくやく)の長しか知らなかった我々は、ウイスキーの瓶(びん)を携(たずさ)えて、湯原の湯治(とうじ)場に赴(おもむ)いた。彼は私の差し出した瓶(びん)の酒をラッパ飲みすると、虚(うつ)ろな顔をしていたが、と、湯の中に滑(すべ)り込んで、沈んだまま浮かんでこなかった。

慌(あわ)てて湯を掻(か)き分(わ)けて彼を捜し出し、救急車を呼んで病院に運んだ。医者は私が彼の病気について説明すると、さも呆(あき)れたというように、御手(おて)あげの仕草(しぐさ)をした。

Kはベッドの上で意識を取り戻し、虚(うつ)ろな顔で医者の話を聞いていたが、ふと医者を罵(ののし)り出すと、点滴の針を抜いて投げ出し、病室から飛(と)び出していった。
 

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