店から駅までの帰り道、リョウコさん、クマくんとジョージが一緒になった。
大柄なクマくんは、小柄な二人にしずしずと小股で歩調を合わせる。
「今夜みたいな話、会社でぜんぜんしないなぁ」ジョージが明るくかすむ夜空を見上げながら話す。
「リョウコさんのところは、みなさん、もっとフランクなんでしょう?」
「わたしのところでも、〈妄想・ディスることを禁ズ〉みたいな空気は、あるわね。批評がふつうに出ないと、実は、問題の本質が見えにくいのよね……」
「ボクの会社は、モヤモヤしてはいけない雰囲気もあります。会社で今夜みたいな話をしても、『そんなこと言ったって、利益出さなきゃ、しょうがないだろう』ぐらいの感じかな」
「みなさん、クレバーに働いているのよ。でも、これからもずっと、『しょうがない』のかしら」
駅に近づくにつれ、黙々と家路へ向かう働きびとが、すれ違うようになった。
クマくんがぼそっとつぶやく。
「……みんな、本質的なことは、考えないように避けているのかな」
「それ、ちょっとヤバいわね」
「そのヤバいは、良いほうですか? 悪いほうですか?」
やわらかな夜風の中、ハナミズキの葉がさざめいていた。
*1 サーバントリーダー ロバート・グリーンリーフが提唱したリーダーシップ哲学。奉仕や支援を通じて信頼を培い周囲に協力してもらえる状況を作り出す
次回更新は11月5日(水)、11時の予定です。
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