美月は孤独だった。そんな孤独な心がたまたま気の合った秀司への想いに繋がっていったのだろう。

美月は秀司には、子供たちがまだ小さいから、私が我慢すればいいことだから、と言っていた。子供がいるから、どんなに酷い夫でも、どんな状況でも母親が辛抱して耐えなければならないのだ。

この国では子供は社会で見守り育てる、という考え方が無い。

子育てや教育は伝統的役割分担として女性に押し付ける。実は伝統でもなんでもなく、江戸時代までは男性も積極的に子育てに係わっていたらしいのだが。

結婚すれば夫に、子供が生まれれば子供に、女性は一生縛られる。現代社会において、生き方も職業も価値観も、子供を持つ選択肢も多様化した今の社会で、結婚ってどういう意味があるのだろう。

結婚という制度を基に行政上の様々な手続きが硬直化され全く改善されていないことから、苦しくてもどんなに辛くても、自分の人生の全てを犠牲にしてでも結婚状態を生涯続けなければならないのか。

結婚すれば通常は夫の姓を名乗るようになることが多く、「世帯」が社会の最小単位となり、家族は全員が世帯主に「所有される」存在になったのはいつからのことで、いつまで続くのだろうか。封建制度、家父長制度の名残ではないのか。

「そんな旦那とこれからの人生四十年以上一緒に生きていくつもり? 別れて自分の人生を取り戻すことを考えた方がいいよ。公務員なんだから経済的な困難に直面することも無いんじゃない?」

「秀司さんが養ってくれるなら別れるよ。フフ、冗談よ。公務員はね、クビにはならないというメリットが大きいだけで、給料は安いのよ。副業は禁止されてるしね。だからシングルインカムの公務員は公営の賃貸住宅に住んでる人が多いのよ」

「でも役所勤めは男女の差別が全く無いよね」

「うん。でも係長試験や管理職試験に受からないと昇任しないし、ヒラのままだと給料も安く昇給も微々たるものよ。試験勉強なんて子育てしてたら絶対ムリ。だから子育てや家事を奥さんに任せられる男子が昇任していくのよ」

「男女平等とは表面的なものなんだね。子育ての負担がいつまでも女性だけにのし掛かっているようじゃ女性の自立や社会参画なんてほど遠いじゃない。大変な目に遭っている先輩女性を見ていたら、共働きで子供を産んで育てようとは誰も思わなくなっちゃう。子供も増えないよな」

 

「大人の恋愛ピックアップ記事」の次回更新は10月18日(土)、19時の予定です。

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離婚に踏み切れずにいた美月だったが、あることをきっかけに真剣に夫との関係を考えるようになった

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社内で結婚相手を見つけて寿退社。専業主婦が当たり前だった昭和五十年代