【前回の記事を読む】「浮気とかしないの?」「試してみますか?」冗談で言ったつもりだったがその後オトコとオンナになった

愛しき女性たちへ

夫がバランスを崩したきっかけが何だったのか美月はよく覚えていないが、秀司と知り合った頃には明らかにメンタルを病んでいると思われる状態だった。

「美月とチビたちは俺の寄生虫のようなものだ。病気でも事故ででも、いなくなればいい」

「嫌いなものに接しているとストレス溜まるから家族に会わないように自室に引きこもっているんだ」

「俺の理想通りの完璧な家事をなぜ出来ないのか」などと夫から毎日のように言われ続け、美月が、

「フルタイムの仕事に加えて子供たちの食事や勉強や洗濯が大変で……」などと言おうものなら即座に、

「また言い訳か」

と自分の部屋に引きこもり、壁を叩いて「クソッ!」などの声が聞こえてくる。

いつ自分が暴力を振るわれるか、子供たちの身に今後何か起こるのではないかと不安で夜も眠れなくなり、別居や離婚も視野に入れて姉や両親にも相談した上で、

「わかりました。私はあなたの理想の妻にはなれそうもないみたい。あなたが別れたいのなら離婚しましょう。準備を始めるわね」と言ったら夫は土下座して、

「本当は離婚なんてしたくない」

と言って泣き出したりするのだ。

これはただのモラハラではなく、精神的な障害があることを確信し、夫に心療内科に一緒に行くことを提案したら激怒されたので、それ以来その話は出来ないでいるうちに同じ会社の事務の若い女性との浮気も発覚した。

美月は特段驚きもしなかったが、この状態をいつまで続けるのか、しっかり考えなければならないと思うようになった。

子供たちはまだ小さいし、夫の本心から出ている言葉ではなくて何かしらの病気が言わせていることかもしれない。いつかちゃんと診察を受けて薬を飲んで落ち着けば元の優しいパパに戻るかもしれないから……。

そう思って美月も頑張っているが、そういう泥沼にはまったまま抜け出せないような陰鬱な毎日を過ごす自分と、早く離婚して新たな人生を踏み出したい自分の間で気持ちが揺れ動く。

本来は明るくよく笑う美月だが、この頃は子供たちの前でもため息をついたり暗い顔付きをすることも多くなり、夫が帰ってくると萎縮している自分にも気付いている。このままでは自分も病んでしまうのではないかと不安を感じ始めていた。

たまには仕事と家族に縛られる毎日の辛さを忘れるような息抜きもしたい。夫や将来のことを考えずに一人の女性として過ごしたい。自分を発散する時間と場所が欲しい。少しでいいから……。