【前回の記事を読む】マッチングサイトに登録する前、交際クラブへの入会を考えたことがある。その時の面談でスタッフの女性に言われたのが…

愛しき女性たちへ

三十四歳とあるが大人の女性だと感じた。さらに、

「私は高級ブランドショップで接客をしていますが、若い男性には全く興味が無く、六十代から七十代くらいの方とのお付き合いを希望しておりました。ケンジさんとお会いするのがとても楽しみです♡ 私は本名を理佳子と申します。そのように呼んで頂けると嬉しいです」

と胸がときめくような一言、二言まで添えてある。

期待に胸が高鳴った。

初デートは銀座で、待ち合わせをしてから食事をすることになった。新橋にほど近いシティホテルのティールームで待っているとプロフィール写真そのものの、小柄だが人目を引くような美しさのスミレが現れた。

赤いブラウスに黒いパンツスーツで、ブラウスと同色のバッグを提げている。肌が透き通るように綺麗だった。

銀座のクラブに勤めている幸恵と何回か行ったことのある「おおたけ」が満席だったので、同じ八丁目にある「瀧沢」というお店で、理佳子の希望で天ぷらを食べた。

「瀧沢」は十一席のカウンターだけの店で、若い職人が二人で揚げている店だったが、年配の女将さんが接客と飲み物を担当しており、ワインやお茶の知識も深く、安心して「おまかせ」を楽しめるところだった。季節の野菜と魚介を中心に、ほど良いタイミングで出される天ぷらを楽しみながら話も進んだ。

「十年ほどお付き合いしていた方とお別れしたので、あのサイトに丁度登録したところでした」

「十年とは、随分長いお付き合いだったんですね。どうしてお別れしたんですか?」

「お前はまだ若いんだから、いつまでも俺なんかとこんな関係を続けていてはいけない。キッパリ別れて結婚も視野に若いオトコと付き合いなさい、と言われました。急にそんなこと言われても、もう遅いですよね」と言って明るく笑う。

こういう世界が普通にあったのかと驚いた。

理佳子は高級ブランドショップで宝飾品の販売をしており、普段からそれなりの客を相手にしていることもあってか、立ち居振る舞いも言葉遣いも洗練された大人の女性を感じさせる。

しかし十年も愛人をやっていたのだ。

十年というとパパ活というお気楽なイメージとは全く異なり、二号、愛人、そんな言葉が脳裏に浮かぶ、明治から大正・昭和初期の文学で描かれるような世界だ。

こんな素敵な女性が二十三、四という若さでどうして愛人になったのか。何か特別な性癖等がありそうにも思えなかった。

疑問は湧いたが初デートでそこまで聞くのははばかられた。もし今後付き合うことになれば追々わかってくるだろう。そのパパと別れた時も、聞いた通りの美しい話ではなかったことが後でわかるのだが。