理佳子は顔も腕も肌がとても綺麗で、シワもシミも一つも無いように感じられた。
理佳子が勤める店のセレブな男性客も理佳子を指名して買い物に来ると言うし、夫婦でよく来る客も、「主人は理佳子さんのお勧めなら何でも買っちゃうのよー」などと金持ちならではのやりとりもあるらしい。
こんな女性と大人の付き合いが出来るなんて夢のようだ。
秀司はブドウの品種、特にドイツのものは良く知らないが、女将さんに勧められたリースリングがとても天ぷらに合った。丁度ボトルも空いて気持ち良くなり、食事も終盤に近づいた頃合いを見計らって、今後の二人のことを打診してみた。
「僕は理佳子さんとお付き合いしたいと思っています。でも理佳子さんは僕本人を目の前にして断わりにくいでしょうから、もし応じてくれるのならメールで連絡してもらえますか?」
「大丈夫です。私の方こそお願いしたいと思います」
「良かった。大人を前提にお付き合いするという理解でいいですか?」大人というのは男と女の関係のことを指すこの世界の専門用語だ。
「もちろんです」
「その場合、露骨な話で恐縮だけれど、都度三にして頂けるとお誘いしやすくて助かります。その後、二人が素敵な時間を過ごせることがわかればアップしたいと思います」
「はい。それで結構です」
あっけなく理佳子と大人の付き合いをすることになり、理佳子ほどの美人でも初対面の自分とそういう関係になることに気安く応じてくる、今はそんな時代なのかと秀司は思った。或いはたまたま理佳子がそういう状況だったのかもしれない。
以前、大阪に毎週のように出張していた折に知り合った北のクラブの幸子がこんなことを言っていたのを思い出した。
「男と女は所詮タイミングよ。たまたま私が離婚したばかりで、付き合っているパピーとけんかしている時にあなたが登場した。それだけのことなんよ」
幸子とは出張のたびに逢瀬を重ねた仲なので、そのように言われたことが若かった秀司には少々寂しく感じられたものだ。
銀座のクラブの幸恵とはそういうタイミングに出会えなかったということなのかもしれない。銀座のクラブの女性でも、タイミング次第で大人の関係を持てたり、逆に長く付き合ってもその先に進めなかったりするのだろう。
そして今、理佳子は正にそういうタイミングだった。これは秀司にとってはラッキーな話だったのだ。だがそんな理屈など、展開の早さと嬉しさに興奮した秀司にはどうでもいいことだった。
「大人の恋愛ピックアップ記事」の次回更新は11月9日(日)、19時の予定です。
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