その先に大きな屋敷が見える。高床の丸太造りだ。その後ろには、いくつか小屋も見える。馬も何頭もいるようだ。

三人は、最初の男たちに囲まれて、高床への階段を上がる。中に入ると、正面に頭の禿げ上がった老人が座っている。この村の長だろう。

老剣ら三人に、座れと促す。床には毛皮の敷物が敷いてある。熊の毛皮だ。連れてきた兵の長が、老人に耳打ちをしている。

若い女が水入れの器と碗を持って入ってくる。老剣ら三人にそれぞれ碗を渡すと、老人も碗を持つ。器の中は酒だ。女が、碗に酒を注いでいく。皆、酒が揃うと、老人が、三人に、飲め、と促した。老剣と法広は一息に碗を空ける。烏丸は、こわごわ、碗に口をつける。

「大丈夫だ。殺すなら、とっくに手を出してる」

老剣が烏丸にささやく。やっと一口飲んだ。三人が飲んだのを見極めて、老人もゆっくりと碗を飲み干した。そして三人を見る。

「客人よ。都から来たと聞いたが」老剣は頷いた。

「この男は前野の地だが」顎で烏丸をさした。

「われらは、西の都、大王の民だ」

「その民が、この地に。この北の、更に奥の村を探していると聞いた」

「その通り。地の果てにあるという村を探している」

「地の果て」

老人は、驚いている。

「この先にも地はある。確かに地の果てまで続いている。この先は、長い冬は雪に埋もれる、極寒の地だ。人はいない」

「行ったことがあるか」

老剣が尋ねると「ここから先の北の地は、禁じられた地だ」老人は頸を振る。

「長老殿、その地の先に火の山があるか」

法広が初めて口を開く。

「かつて炎を天に噴き出した山。大きな火の山だ」

 

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