「わかった。その前に仲間に、そう話してくる。ここで待っていてくれ。烏丸、おまえはここにいろ」
心細そうな烏丸を残して、老剣は、ゆっくりとした足どりで隊列に戻っていく。
先頭で英子が老剣を待っていた。
「英子様、事情は話しました。一旦、向こうの長に呼ばれるようです」
「そうか」
英子が頷く。
「厄介だが、おまえなら、うまくやれるだろう。われわれはどうする」
「ここで、動かないでいて下さい。一応、向こうの話を聞いておきます。それがいいでしょう」
「わかった」
老剣殿、法広が呼びかけた。
「私も、向こうに一緒に行かせてくれ。この地の周辺の様子がわかれば」
駄目だ、と英子が言下に断る。
「法広に、もしものことがあれば、この旅そのものが、無に帰してしまう。あなたが一番重要だ」
そう続けた。そう言われると、法広も一言もない。
老剣は笑って「法広殿、どうしても行きたいか」そう尋ねた。
法広が頷くと、老剣は英子に向き直る。
「英子様。法広殿は私が守ります。もっとも、法広殿は、自分の身は自分で守れるものと、にらんでおりますが」
自分で守れる、か。英子はそう言うと、法広の顔を見た。そういう目で法広を見たことがなかったのだ。隋の仏僧にして案内役。気のおけない、異国の学者。
そう思っていた。仮に法広に何かあっても、法広自身の意志であれば、隋使の裴世清にも申し訳が立つ。力尽くで止める手立ては無い。
「わかった。ただ、慎重に頼む」
それだけ言う。法広は礼を言って頭を下げた。
「蝶英。法広殿も、私と行く。残るのは、おまえだけだ。英子様を頼んだぞ」
老剣は蝶英に、あらためて声をかける。法広と共に、村の兵の元へ戻っていく。
しばらく村の兵たちに囲まれて歩いていくと、雑木林を抜けて平地の畑に出る。