ローザの気が向くと二人で、ときにミカエルがコイチの頭に乗り、あの滝に行き体を洗い、マンゴーを摘(つま)んだ。

滝のカーテンの向こうの崖のくぼみは、岩肌のあちこちから染み出す水で一面、濡れている。そこに水の音が反響し、激しく流れ落ちる水のカーテンが虹を幾つも作り出す。人類が決して存在してはいけない空間のように思えた。

この幸せがもたらす気味悪さは考えなくていいようだ。過去の自分を忘れていいと本能が甘やかす。

互いに何を言っているのかわからない。しかしローザの両瞳の奥をそれぞれ丁寧に覗き込むと、胸に沁み込む多くの何かが、彼女への理解に導く。言葉がわからなくても口調で気持ちはわかる。

以心伝心というわけではない。そんな難しい言葉が思い浮かび、記憶が戻りかけていると理性が告げる。思い出すことが不安になった。この幻想の日々が過去より気楽だと体の一部分が教える。

以心伝心と言う人は面倒くさがり、傲慢。誰がそう言ったのか。お互いに双肩を向け、頬が上下に動く様子を精緻に確かめ、十本の指先の力加減を読み、息遣いの深さを数える。

遠浅の海は月の大きさに合わせ満ち引きを繰り返す。波打ち際が最も遠のくと、白い浜が視界いっぱいに広がる。しかし海面が戻るスピードは速い。浅瀬でじゃれあっていたはずがローザを水面越しに見上げることになる。このまま溺れさせてくれと願った。

食料はスィスタの男が十日置きくらいにボートで運んでくる。女たちの服も時々、持ち込んだ。「ママ」サイズの短パンをコイチは分けてもらい穿くことにした。

男が訪れるたび、ビールと野菜や干し肉、干し魚のフィエスタになる。どこの馬の骨ともわからぬコイチに四人は気前よく振る舞う。こんな底抜けの居心地の良さがこれまでの人生にあったとは思えなかった。

女たちと男が話す言葉は、普段、女たちが話す言葉とは、かなり違うように聞こえる。