【前回の記事を読む】『SNSの利用者も馬鹿ではないので、自分の有意義な情報を出してくれるアカウントでないとフォローしてくれません』
訳アリな私でも、愛してくれますか
「……さっきはあんなこと言ってごめんね。私の認識が甘かったかも。今度から、岩下君と一緒にSNSの運用に入ってもらおうかな」
「はい。じゃあ俺、岩下さんのところに行ってきますね」
「あ、うん……」
礼は満足げな笑みを浮かべてオフィスを出ていった。その背中を見て、期待とともに不安もこみ上げてくる。
(あの子、生意気そうだし、岩下君と馬が合うようには見えないけど……。こんな感じで大丈夫かな……)
早くも前途多難を予感し、千春は小さくため息をついた。
ある雨の日の帰り道。くるみは最近買ったお気に入りの折りたたみ傘をさして歩いていた。この傘は折りたたみにしては大きめで、からだをすっぽりカバーできるしデザインも可愛いしで気に入っている。
(今日はちょっと早く帰れたし、なにか映画でも観ようかな……)
そんなことを考えながら歩いていると、明かりがつき始めたカフェの軒先に笹川が立っていた。
重たそうな荷物を腕に大事そうに抱え、雨水を落とす空を見上げている。
(もしかして、傘がない……?)
昼間は晴れていたものの、くるみが会社を出る直前にざあざあとかなりの量降り出したのだった。
「笹川さん、お疲れさまです」
「あっ、くるみさん。お疲れさまです」
笹川に声をかけると案の定、雨が降っていることに気づかず会計を済ましてしまい、傘もないし行き場もないという状況だったという。
「研究室の学生から預かった紙の提出物をカバンの中に入れていたので、濡らすわけにもいかず……ここで立ち往生していました」
「そうなんですね。よければ私の傘に入ってください。駅まで行くんですよね?」
「はい、駅までです。でも……いいんですか? 濡れませんか?」
「いえ、この傘、折りたたみだけど大きなサイズなんです。だから大丈夫ですよ」
「そう言われたら大きい気がしますね……」
「ですよね! そこが気に入っていて……もちろんデザインもなんですけど。なので、どうぞ」
「ありがとうございます、本当に助かります」
笹川が少し屈んで傘の下に入る。傘の下に入った瞬間、ぐっと心理的距離が近づいたのがわかった。
「傘、僕が持ちます」
「あ、いえ! 荷物、重そうですし」
「大丈夫です。こういうのは女性に持たせるべきではないと思いますし」
「気にしないでください、持てるほうが持つ、でいいじゃないですか」
「……そう、ですね。ありがとうございます、何から何まで」