【前回の記事を読む】「子供預かるから、海外出張行ってくんないかなぁ」出張先は密林の奥地だった。4週間の予定が、8週間に延び…

二〇〇四年 孝一@南の島

俺はどこにいる?

うつ伏せになっているところに潮が満ちて来たらしい。くちびるを濡らす何かを朦朧としたまま飲み込んだ。あまりのしょっぱさに咳き込み、孝一は目が覚めた。

眩しい。

両腕を支えに上体を起こす。

ここは、どこだ。

十本の指の間を透き通る水がゆったりと撫でる。

心地よいくすぐったさとは対照的な底知れぬ恐怖が全身を支配する。

真っ白で砂時計に使われるような細かな砂が右にも左にも伸び、海岸線が弧を描く。その形は地上に落ちた三日月のように、足元で二十メートルほどの幅が視線に沿って細くなり、椰子の木立の向こうで果て、見えなくなる。見えないだけで永遠に続いていそうな気はする。

吐きそうな深い痛みをこらえ頭を上げる。目の前にはエメラルドの森が広がる。影が濃い。

目の前の森、そこにあるのは、この体に馴染んだ種類の植物じゃない。これはジャングルだ。その言葉を知っている。なぜだ。

胸くそ悪さを抱えた痛みで脚が震える。しかし立ち上がることができた。

平地の森の幅は狭く、すぐ向こうに険しい山が連なる。

振り返ると真っ青な海が静かに広がる。思い出せない恐怖とは別の絶望が、じわじわと湧いて来る。

水平線と岩くらいの島々が幻のように輝いている。

俺は夢を見ている。

上を見た。群青色の空が突き抜けている。ポカリと浮かぶ白い雲が一つだけある。

その雲の上に自分が乗っている気がする。自分が乗るその雲を、地上から見上げている誰かがいる。俺の大事な、誰かが、二人で、見上げている。

下を見た。靴のない二つの足が浅瀬の揺らぎの中にある。破れたズボンが両脚を包んでいる。

俺は、誰だ。

衝撃が走る。

何が、俺に起きた? こんなに穏やかでコントラストのある美しい大自然は俺が属する場所じゃない。そうだ、肩を揺さぶられていた。

目を開けようとしても開かなかった。開けたつもりでも視界は赤黒く、何も見えなかった。

コイチ、コイチ、と叫ぶ男の声が降ってくる。

コイチ? とうめく咽喉の振動はその男に伝わったらしい。

コイチ、ヨアネイム、と男は言った。