リョウコさんが、ゴーヤの揚げ物に残ったギバサをのせながら、ブツブツつぶやく。

「もう、言葉も技術も思想も、世代も階層も大企業もNPOも、ぜんぶ混ぜこぜにしちゃえばいいのに。いちいちバカみたいに分けて壁をつくったり、分業したことだけ磨けば専門家だとかなんとかやっているから、面倒くさいんだわ。人間や世界について、パーツでしか考えなくなっているのよ」

彼女の快活さが、論理的なムチャを吹き飛ばす。

「それな。混ぜこぜは、わりと、日本の得意技だよ」ネイビーが受けとめる。

「日本人の、ウタの歌詞って、いろんな言葉が混ざっていますよね」ジョージが気づく。

「♪ハロー、好きだよ、モウマンタイ~みたいな」シュウトくんが歌い、YOさんは、

「カツとカレーだ。昨日は、カレー蕎麦に海老天がのってた。混ぜこぜは、文化遺産にすべきだ」

「兄貴が言ってるの、全部カレーじゃないか」

「トルコライスはどうだ? ニッポン洋食のすばらしい混合感」

「……カレーピラフが入ってる」

「食べると育てるで〈食育〉とか、〈終活〉とか……漢字も混ぜ合わせで価値を生むね」

「歌舞伎なんかも、すごいのよ。どうして四谷怪談と忠臣蔵の討ち入りの話が合わせ技になるのかしら。あれ、どうやって発想したんだろう?」

「今度のコロナ禍でリモートワークがはじまって、オンとオフも混ざり合いましたね」

「ああ、PCの画面に、同僚の子どもや猫が顔を出したりするの、ちょっと、いいんだよね」

「複業や兼業も、やりようによっては、面白い混ぜワザになるかもしれないわ」

そうか。食品スーパーの仕入れをやりながら、行政の地域振興を兼務するとか。生鮮品の担当部署が、料理教室を開業するとか。イベントではよくやるけど、〈職〉にして混ぜられるな……混業。そのほうが、楽しそうじゃないか。

「人間とAIも、結局、混ぜこぜになるんだろうな」

「イイトコ取りって考えれば、いいんじゃない?」

「僕の中身は、テクノロジーと混ざって、どんな進化をするんだろう」

「シュウトはもう、脳の半分ぐらい、あっち側の世界に混ざっているんじゃないか?」

「自分がどっち側の世界にいるのか、よくわからない時があります」

次回更新は10月29日(水)、11時の予定です。

 

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