【前回の記事を読む】傷を負った俺が誓った復讐。女を巻き込んだ兄弟たちを徹底的に叩き潰す

第二章

8

「渋谷はどうなってる?」と博昭は言った。ナオキは首を振った。

「おい」と博昭は口調を強めた。ナオキが博昭の顔を見た。目が怯えている。

「あっちこっちで噂になってる」
「どんな?」
「サイコ兄弟にやられたって」
「なんだと?」
「怖いから出てこれねえんだって」

博昭はナオキの胸倉をつかんだ。

「てめえはそれを信じるのか」
「信じるわけねぇだろ。でも、渋谷はその噂でもちきりなんだよ。ヒロアキ。戻ってきてくれよ。このままじゃ骸に潰されちまうよ」

博昭は胸倉をつかんだまま顔を寄せた。

「俺ばっかりに頼るんじゃねえ。てめえはどうなんだ」
「やるよ。だけど、向こうは矢部兄弟だけでなくて、福田まで出てきたぜ」

福田誠。骸の頭。凶暴さでは矢部兄を上回る。弟をやられてから更に残忍になった。

「このままじゃうちはバラバラになっちまう。みんなおまえを待ってるんだよ」
「福田を探せ」
「あいつすげえ警戒してるから難しいんだよ。神出鬼没でさ。なあヒロアキ。頼むよ。戻ってきてくれよ」

博昭は少し考えてから、胸倉の手を放した。そしてデスクから札束を取り出す。風間から預かった金。無造作に札束をつかみ、ナオキに投げ捨てる。

「これでトーシローを雇え。見つけ次第、俺に連絡をしろ。いいか。俺が到着するまで絶対に手を出すな」
「じゃあ、やるのか?」
「てめえ、誰に口聞いてんだ。とっとと行きやがれ!」
「ほんとにやるんだろうな。おまえはころころ気分が変わるから俺だって大変─」

最後まで言わせなかった。腹部に蹴りをくらったナオキはその場に崩れ落ちた。