【前回の記事を読む】サイコ兄弟に敗北したという噂が渋谷を支配する中、男は敵組織への反撃を決意する

第二章

8

ホテルのロビーは閑散としていた。男がひとり、入り口近くのソファーに腰掛けているだけだ。男は博昭を見ると微笑んだ。そして立ち上がった。

「工藤さんですね」と男は言った。か細い声だった。何かの動物に似ているな、と博昭は思った。「加瀬と言います。よろしくお願いいたします」白髪で瘦身の男が名乗った。

この仰々しい男は風間の使いである。博昭の様子を窺いに来たのだ。

「お食事を用意しております」

男が玄関口を指し示した。すでにタクシーが横付けされていた。

何に似ているのかがわかった。ガキの頃、施設のテレビ番組で観た動物。細身の肉食獣。コヨーテだ。

「評判通りですね」

コヨーテが言った。「何が?」と博昭は聞いた。

「猛っている」

コヨーテはまた微笑んだ。