閑散としたロビーのソファーに腰掛ける白髪の男──その姿は細身の肉食獣“コヨーテ”を思わせた
永遠と刹那の交差点に、君はいた。[注目連載ピックアップ]
【第28回】
津田 卓也
幼い頃、実の父から虐待を受けて育ったギャングのリーダー、博昭。
父と弟を水難事故で亡くした若き劇団女優、今日子。
ギャング同士の熾烈な抗争、不倫に揺れる劇団、誰もが心の檻の中で葛藤し、様々な思惑が交錯する東京・渋谷。
二人の宿命的な出会いをきっかけに動き出す、圧倒的なスピード感で繰り広げられる恋愛群像小説を、連載にてお届けします。
幼い頃、実の父から虐待を受けて育ったギャングのリーダー、博昭。父と弟を水難事故で亡くした若き劇団女優、今日子。二人の宿命的な出会いをきっかけに動き出す、圧倒的なスピード感で繰り広げられる恋愛群像小説。 ※本記事は、津田卓也氏の小説『永遠と刹那の交差点に、君はいた。』(幻冬舎ルネッサンス)より、一部抜粋・編集したものです。
【前回の記事を読む】サイコ兄弟に敗北したという噂が渋谷を支配する中、男は敵組織への反撃を決意する
第二章
8
ホテルのロビーは閑散としていた。男がひとり、入り口近くのソファーに腰掛けているだけだ。男は博昭を見ると微笑んだ。そして立ち上がった。
「工藤さんですね」と男は言った。か細い声だった。何かの動物に似ているな、と博昭は思った。「加瀬と言います。よろしくお願いいたします」白髪で瘦身の男が名乗った。
この仰々しい男は風間の使いである。博昭の様子を窺いに来たのだ。
「お食事を用意しております」
男が玄関口を指し示した。すでにタクシーが横付けされていた。
何に似ているのかがわかった。ガキの頃、施設のテレビ番組で観た動物。細身の肉食獣。コヨーテだ。
「評判通りですね」
コヨーテが言った。「何が?」と博昭は聞いた。
「猛っている」
コヨーテはまた微笑んだ。