ステーキ店は貸し切りになっていた。がらんとした店内の中央テーブルに二人は座った。まるでコヨーテの行く先行く先で人間が消失したかのように静かだった。
「まずはおなかを満たしましょう」
加瀬は五百グラムのステーキを二枚注文した。飲み物についても聞かれたが、博昭は、いらない、と答えた。ステーキが運ばれてくるまで二人は無言だった。
博昭はコヨーテを観察した。女のようにあでやかな肌をしているが、よく見ると格闘技経験者だとすぐにわかる。
潰れた耳に、平たい両手の拳。左の眼尻にある傷跡。体は細いが、その優雅な動きはバレエダンサーのようだ。
「戦闘力を計算しているんですか?」
加瀬は微笑んだまま言った。博昭は答えない。
「あなたには勝てませんよ。そのくらいはわかります」
「どうして?」
「わかる程度には強いってことですよ」
加瀬は水を飲んだ。
「ところで、傷は癒えましたか?」
博昭も水を飲んだ。そして笑った。
ステーキが運ばれてきた。最高級の黒毛和牛ということだが、博昭にとってはどうでもよかった。
ただ腹は減っていた。むさぼるように食べた。博昭とは対照的に、加瀬は腕利きのシェフのような手つきで肉を口に運んだ。
次回更新は11月2日(日)、21時の予定です。
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