以前ニーチェの哲学書で読んだ、古い殻に閉じこもったままの人間は駄目になるといった趣旨の格言を、武司は身近に感じていた。ましてや変化を求めて進んでいく周囲に対し、それを押し付けるのは極論、世界を破滅に追いやる行為に値するのではないか。

とはいえ、父が威張れるのは家庭内だけであり、職場では浮いて何の影響力もないのを見ればまだ可愛い方ではあるし、武司にとっては自身の信仰する哲学が正しいことを証明しているようで喜ばしかった。

然し、戦時中の日本やナチスを思うと、時代やそこに生きる人々の状況によっては、想像もできないような愚考が伝播していく可能性が、残念ながら十分存在するのである。

父に対し、二度も世界を滅ぼすつもりかと皮肉を言えるのも、今のうちかもしれない。ニーチェの哲学書で読んだ、古い殻に閉じこもったままの人間は駄目になるといった趣旨の格言を、武司は身近に感じていた。

ましてや変化を求めて進んでいく周囲に対し、それを押し付けるのは極論、世界を破滅に追いやる行為に値するのではないか。とはいえ、父が威張れるのは家庭内だけであり、職場では浮いて何の影響力もないのを見ればまだ可愛い方ではあるし、武司にとっては自身の信仰する哲学が正しいことを証明しているようで喜ばしかった。

然し、戦時中の日本やナチスを思うと、時代やそこに生きる人々の状況によっては、想像もできないような愚考が伝播していく可能性が、残念ながら十分存在するのである。

父に対し、二度も世界を滅ぼすつもりかと皮肉を言えるのも、今のうちかもしれない。

父に反発しながらも、更には楽しみや目標を特に感じないながらも、武司は剣術を続けた。寧ろ黙々と鍛錬し、実力を付けたことで、嘗ては恐怖でしかなかった父に抗う気力が付いたのかもしれない。

いつか再び殴ってきたら、竹刀を手に取って返り討ちにしてやろうと、数十回は脳内で父を倒していた。然し、その殺気が伝わったのか、父は武司にも母にも手を出してくることはなくなった。寧ろ父との交流そのものが減ったようにも思えた。

高校生最後の年、進路を決める時期となった。大学には行きたいと思っており、母もそうしなさいと言ってくれた。父には反対されそうで黙っていようかとも思ったが、さすがにそうもいかないだろうと打ち明けた。

 

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