早苗月になると、まず女たちがコメの苗を植えていく。潟の周りに広がった田んぼの数々、数千にもなろうか、まるで大地の鏡のように天を照り返す。男たちが土壌を耕し、水を張りながら均していく。共同作業の手始めである。
春祭りがあった小高い山で、神事が行われた。
王族一同が会し、王女たちは農民の格好をしている。
太鼓や笛に合わせ侍従たちが拍子をとりながら唄い始める。と、姫たちは恥ずかしそうに裸足になり、中には膝までたくし上げ、水田の中に入っていくではないか。
大王が手白香姫に声を掛けた。
「手白香も如何か」
真っ赤になった手白香姫に、
「嘘じゃ、嘘じゃ、言ってみたまでじゃ。他の男衆まで虜になってしまう」と、大王がはしゃいで周りの妃たちを驚かせている。その様子をじいっと窺っている倭妃と目子妃。
姫たちの真っ白な素足の眩しさが男たちの目に焼き付いていく。
あちらこちらの水田の端に、早苗を持った女たちが一列に並んだ。
まず姫たちが、
「そうっれ」声を上げてかがみ、左から右へと苗を三本ずつ突き刺していく。
と、下の田んぼからも「そうっれ」と初々しい女声が響き渡ってきた。
そしてその間、姫たちの列が一歩後ろに後ずさりした。
「そうっれ」姫たち。
「そうっれ」早乙女たち。
交互に繰り返され、見る間に田んぼが早苗で覆われていった。田んぼの後ろ端まで植えながら辿り着いた姫たちを王子たちや従者が手を差し伸べ労わっていた。王女たちは草履を履き大王のもとへと駆け寄ってくる。
「ご苦労じゃった、ご苦労じゃった。そなたたち女子が一番頼りじゃ」
と、大王はにこやかに、褒美の玉を渡していた。宝飾品の一つとして大事に嫁ぐ時まで貯めていくらしい。魅力的な大王の秘密はここにあると、手白香姫はそう思う。――気兼ねなく誰にでも話しかけ、相手を持ち上げ、気分良くさせてしまう。そんな大王オホトは老若男女問わず、親まれで尊敬されている――
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