【前回の記事を読む】新しく入ってきた社員はいかにも軽そうな男だった。彼は会社のお荷物か、それとも救世主か……?
訳アリな私でも、愛してくれますか
大きな自社ビルと言えど、この時間帯はどの会議室も空いていない。デスクのすぐ後ろにあるちょっとした休憩スペースを使って打ち合わせをすることにした。
SNSの運用を担当していた岩下と向かい合い、それぞれノートパソコンを見つめる。画面には、今回炎上したSNSの投稿が表示されていた。
「まず、今回の炎上の経緯について、確認するね」
「はい」
「昨日の夜予約投稿されていた、資産運用についてのセミナー告知の投稿が元になったと。で、その内容については事前に作成の上、うちのコンプライアンス部にも確認済み、ってことだよね」
「そうです」
改めて、そのSNSの投稿内容を見る。
『女性の皆さん! やっぱり投資って難しいですよね? 株やETFはいかがですか? 服やバッグ、買いたいものはたくさんありますよね。旦那さんに内緒で、へそくり作りましょう! セミナーお申し込みはこちらから!』
(これがよくコンプラ部の審査に通ったよね……)
「炎上内容としては、『女性は難しいことがわからないという決めつけ』『服やバッグしか興味がないというのは女性軽視だ』っていうのが主な意見だよね」
「はい」
基本的には金融商品の広告にあたると考えられる投稿は、一度コンプライアンス部に確認依頼をして広告審査を入れることになっている。このSNSでは広告審査の対象となる投稿と、そうではないものがある。いわゆる、中の人の気軽なつぶやきまでは広告審査の対象外であり、現状岩下が1人で投稿可否を決めていた。
「岩下君としては、今回の投稿って何が炎上の原因だったと思う?」
「うーん、まぁ、女性軽視だったのかなとは思いますけど」
「どういうところが女性軽視だって思った?」
「……投資って難しいですよね、って決めつけたところ……? ですかね」
「他には?」
「まぁ、リプで言われてたのは、女性がバッグと服にしか興味がないって決めつけもどうこうっていうのは言われてましたけど……」
岩下は一応今回のリプなどを見て、炎上の理由を探っているようだった。
「そうだね。他には?」
(なんていうか、全体からじんわりとにじみ出る女性軽視感はどう伝えたらいいんだろう……)
「というか、自分なりには、ターゲットに呼びかけるつもりで書いたんです。親近感持ってもらおうかなって」
「親近感……をね……」
ある程度、岩下にSNSでのプロモーションの進捗を聞いてはいたものの、自分の目で投稿を1つ1つチェックしてはいなかった。PVやインプレッションが高いものだけを毎週の定例ではピックアップしてもらっていたし、これほどまでに『中の人』の人格が出るような投稿をしているとは思ってもいなかった。