二人はエレベーターホールを出て、車寄せとは反対側の日本橋四井タワーのホールへ抜け、中央通りへ出た。
良は、
「では、後で!」
と言ってタクシーに乗って、走り去っていった。
浩もタクシーに乗り、五反田の先の戸越駅へ向かった。
駅を過ぎて第二京浜沿いに材木商の店を構えている材木問屋『鈴商』の前で、タクシーに少しだけ待ってほしいと伝え、鈴商の材木が並ぶ脇を通って店の中へ入り大学の先輩吉田を訪ねた。
吉田は大学時代の手品愛好会で一緒に遊んだ仲間だ。
店に居た女性が、
「あ! 田賀さん! 専務は今外出して居ませんよ!」
と答えた。
田賀は店の脇に有る端材置き場を指差し、
「松田さん、こんにちは! 朝からすみません。実は吉田さんにお願いしてあそこの端材から幾つか持って帰りたいので、了解をもらおうと思ったのですが……」
と言うと受付に居た松田女史は、
「分かりました、伝えておきます。どうぞお持ちください! 又手品のトリックに使うのですか?」
と聞いた。浩は笑って、
「ええ!」と答え、
「では、幾つか持ち出します、有難うございます。吉田先輩に元気にやっていますと伝えてください」と言った。
松田女史は、ニッコリして頷き、直ぐ事務所の奥へ戻って行った。
浩は材木置き場へ行き、短くて重い角材五個を苦労して手に抱えてタクシーへ戻り、そのまま乗り込むと五反田のマンションへ向かった。
マンションの入口でタクシーを降りてリュックを背負い、重い角材を必死になって両手に抱え、エントランスをくぐりエレベーターに乗って、久しぶりのような感じを覚えながら自宅扉の前に着いた。
ドアを開け、床に置いた重い角材を中へ取り込み、リビングでリュックを下ろしたら自分の部屋にホッとした。
つい昨日の事なのにと思った途端、疲れがどっときた。
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