【前回の記事を読む】「緊急搬送されています。左足の親指から切れてしまい…」「足の親指を切断!?」嫌な予感は的中した。急いで病院に向かうと…
第四章 不運が招いた縁
幸也さんが来た。
「お姉さん、兄貴は!」
「まだ手術中よ。夕方六時までかかるそうよ」
「高木さん、事故の経緯を教えてください」
「分かりました。九時頃、取引先の工場の視察がありました。当初は副社長の予定は入っていませんでしたが、スケジュールが空いたので行きたいとおっしゃって、急きょ、吉田専務と同行する事になったんです。
視察途中の工場内で大きな棚が崩れてきて、吉田専務の頭上に倒れてきたんです。吉田専務の後ろを歩いていた副社長が専務を突き飛ばして、足をケガされました。
大型カッターが左足の親指の一部を切断する事になったんです。それからが凄いんです。『圭、無事か! 良かった!』と確認されて、工場長に『事を大きくしないで、大したケガではないので、社長には心配しないでと伝えてください』と。
『圭、会社に戻って、社長に、報告と明日からの僕のスケジュールを高木と調整して、君がスケジュールをこなせ。いいな! 頼んだよ!』と急ぎ、救急車に乗りました。
そして『妻に連絡をして、心配ないと伝えてくれ』と言っていました。僕は心が震えました。副社長の下で働けて、幸せです」
「そうだったんですか。それで圭君、ショックを受けていたんですね。でも本当に良かった。丈哉さんの事だから、圭君がケガをしていたら、自分がいるのに圭君を守れなかったと後悔したと思います」
「副社長、何かあると感じるものがあったんですかね」
幸也さん、
「兄貴らしい」と笑っている。
「姉さん、僕は会社に戻って、父に話して、母を迎えに行ってくるね」
「くれぐれも、心配しないでと伝えてね」