【前回の記事を読む】サッカーで腰を痛めてリタイア。マネージャーを勧められたが「その器量はありません」と断った。しかし本当の理由は――

地球儀

勉強には興味が持てず、サッカーを断念し、雅子に見捨てられ、途方に暮れていた恭平を救ってくれたのは高校時代からの友人で、一年早く陸王大に入った杉野将仁(まさひと)だった。

杉野は金が底をつくと、東横線、山手線、西武新宿線と乗り継いで、恭平の下宿にやってくる。杉野を迎えた恭平は定番のカレーライスを大量につくり、取り留めの無い話で夜を更かし、帰りには手持ちの金の半分を渡す。渡した金は、一度として戻っては来ない。

恭平が東京で二度目の春を迎えた、或る土曜日の午後。

鉄製の階段を大きく響かせ、荒々しく部屋のドアを開け、暖簾の向こうに顔を隠したままの杉野が、喧嘩でもするように叫ぶ。

「おい、恭平、これまで借りていた金、全部返すぞ。麻雀が打てて、金持ってそうな奴を二人ほど呼べや」

腰をかがめて暖簾をくぐる杉野は、身長が百八十六センチもある。その手には小さなアタッシュケースがある。

「麻雀は四人でするもんじゃろうが、二人呼んでも仕方ないじゃないか」

「何を言うとるんや。恭平がおるじゃないか」

「俺!? 俺は、麻雀なんか知らん」

「大丈夫じゃ。今から教えたる。それに、恭平が負けても、儂が勝つけぇ、心配するな」

「……」

「社会に出てからも、麻雀は必要じゃ。ルールは、高校時代にようやったセブン・ブリッジと同じ要領じゃ」

杉野に説き伏せられ渋々階下に降り、家主の電話を借りての連絡で、二人のメンバーはすぐに見つかった。

アタッシュケースと見間違えたのは麻雀牌のケースで、渋谷の古道具屋で三千円だったと言う。炬燵板を引っ繰り返しての超短期麻雀講座が終了せぬうちに二人が訪れ、賽は投げられた。