「劇的な出会いは、心が限界に達したときに起こる。私たちが気持ちのうえで一度死んで、生まれ直すときに。出会いは、私たちを待っている」
歯がカタカタと鳴る。顔の筋肉が引きつる。唇を噛んだ。
「誰でも愛することはできる。誰もがその才能を持っている。それを自然にできる人もいるけれど、多くの人は、どうやって愛せばいいのか、学ばなければならない」
台本が手からこぼれ落ちる。立っているのがつらい。
「欲望と失望の業火に焼かれなければならない」
昨夜の出来事が蘇る。
ラブホテルのトイレのドア越しに聞いた河合の押し殺した声。
「今日は遅くなる。ああ。いろいろ公演の準備があってさ。先に寝てていいよ」
妻子持ちの男。高校生の娘がいる男。私と交わった後、平気で妻と娘が待つ自宅に帰る男。
私はこの男を愛しているのか?
大きく息を吐いた。
「私は幸せになりたい。でも、それは許されることなんだろうか?」
セリフを声に出したとたん、体が震えた。
立っていられない。うずくまった。
誰かが手を叩いた。
「すばらしい。いい演技だ」
河合が手を叩きながら言った。今日子は泣いた。
震えはいつまでも止まらなかった。
次回更新は10月12日(日)、21時の予定です。
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