鉄道のダイヤグラムを開発管理するような仕事は、はじめに量子コンピューターを導入する可能性が高い、先端分野なのだ。先端に触れている者ほど、シンギュラリティ*1に対する危機感も、いっそうリアルなのかもしれない。

ジョージもまた、想いを合わせる。

「ボクたちコンサルも、期待と不安が半々です。もうすでに、『こんな新規事業を立ち上げたい』とエージェントに打ち込めば、タスクもフィードバックも、AIがプロジェクトマネジメントのベースを出してきます。そのうち説得や交渉まで可能になるらしい。クライアントは、ジョージは、もういらない。自分たちだけで、できると言い出すかもしれない」

「ハッカーもコンサルも、ヤバい感があるのか。もう、勉強しても、しょうがないじゃん」

そういうYOさんに、シュウトくんがぷるぷると首を振る。

「ダメです。だってAIになにを頼むのか、それをつくったら、誰に喜んでもらえそうなのか、やっぱり人間のことや世の中のことをもっと知らないと、良い突破口を見つけてAIと話せないんです。でもそれは、いままでの〈お勉強〉と、ぜんぜん違う感じがする」

「シュウトは、なにを勉強しているんだ?」

「えーと、いまは、歴史」

「へ?  歴史?」

若者はスマホにタッチして、呼び出した画面を隣りの先輩に見せる。

「実は、YOさんに教えてもらおうと思っていたんです。ここの内装」

「ここ、どこ?」

「京都の桂離宮」

「……あのさ」YOさん、うろたえる。

「それはな。おれのような町場じゃなくて、数寄屋職人っていう特別な仕事師がいるんだよ」

「けっこう調べているんですけど、このデザイン、シブいですよね」

「あのね。ウチの扱っている内装は、アルミサッシや塩ビの壁紙なんだ。そりゃ和室もやるけどさ。まいったな、こいつ、深くて」

「サイバースペースに、いい溜まり場をつくりたいんです。空間のアイデア、歴史の中から見つけちゃった」

「それよね」リョウコさんが、まるい笑顔になる。