【前回の記事を読む】相変わらず我が家の天井に居座る大きなネズミ。そんなある日、屋根の上で見つけたのは白いメスの子猫だった

丙午と野良猫記

そうこうしているうちに冬になった。急に寒くなったので私はインフルエンザに罹ってしまった。家族にうつしてはいけないので、二階の息子の部屋を借りて寝ていた。

日曜日の早朝だった。インフルエンザも治りかけて、その日もゆっくりと布団に入って眠っていた。するといきなり、

「ガタガタ、ガタガタ、ギャーーッ」

「バタバタ、ドカドカ」

「ギャーーッ。ギャーーッ」

「ドカドカドカドカ……ッ」

「ドドドド……。ゴロンッ」

と瓦屋根と二階のすき間で、ものすごい闘いが始まった。そう、あの白い子猫があの大きなネズミを見つけたのである。しばらくすごい音が続いて、ピタッと止んだ。勝者は子猫だった。この日を境にあの大きなネズミは我が家から退散した。

「ブラボー!」

命の恩人、否(いな)、命の恩動物である。子猫はずっと我が家の二階をパトロールして、ネズミの居場所を捕らえ退治してくれたのである。

その後私のインフルエンザは無事完治した。元気になったある日、玄関を出た所に子猫が居たので挨拶をした。

「この間はネズミを退治してくれて本当にありがとうねぇ。お陰で助かりました」

と深々と頭を下げた。すると子猫は両足を曲げて丸く座り、目をつぶって微笑んでくれた。

あの畳屋さんが教えてくれたのは本当だった。どこからともなく現れた野良猫に、私は助けてもらえた。不思議な出来事である。私はこの白い小さなメスの野良猫を「ゆめちゃん」と名付けた。それ以来、我が家の前の向こう三軒両隣がゆめちゃんの縄張りとなった。

後に井戸端会議でわかったのだが、我が家の右隣さんも向かいのお宅にも、そのまた向かいのお宅にもネズミが出現していた。話をしてみないとわからないものである。今では我が家の前の道路を「ゆめちゃんロード」と呼んでいる。