毎日現場に通ううちに、仕事にも次第に慣れてきた。休憩時間に話をする余裕も生まれ、知り合いも増えていった。
現場には私と同年代の作業員はいなかった。父親と同じくらいか少し若いくらいの人が多かった。
みんな長年農作業や山仕事、土木作業などをしているためだろうか、がっちりとした体格で重い石材も難なく持ち上げる。私が物を運ぶのに苦労していた時は、さりげなく助けてくれたこともある。年が離れた私のことをよくかわいがってくれた。
秋の始まりのよく晴れた日だった。五人でオート三輪車の荷台に乗り現場に向かっていたが、こんなに天気がいいのだから今日は仕事を休んで山に登ろうという話になった。その中には将来義兄になる小さな巨人正和さんもいた。
監督に許可をもらって、私達は弁当一つで鳳凰三山に向かった。
鳳凰三山は、南アルプス北東部にある地蔵ヶ岳、観音ヶ岳、薬師ヶ岳の三つの山の総称だ。どの山も標高三千メートル近い。
オート三輪車から途中でおりて、険しい登り坂を進んだ。登山道は整備されておらず、まさに道なき道だった。
しかし私は登っているうちに、頭が痛くなってきた。めまいもする。標高が高い所では酸素の濃度が薄くなるために起きる高山病だった。
【イチオシ記事】折角着た服はゆっくり脱がされ、力無く床に落ち互いの瞳に溺れた――私たちは溶ける様にベッドに沈んだ
【注目記事】「ええやん、妊娠せえへんから」…初めての経験は、生理中に終わった。――彼は茶道部室に私を連れ込み、中から鍵を閉め…