夕闇が広がり、すぐ脇は海という橋を歩いた。潮の香りが、どうしても松島を思い出させる。咲元はゆっくりとはしっこに寄り、下の海を覗いた。

「同じ海でも違う気がするよね。」

「そうね、単に街中だからって気もするけど…。繋がってるのよね。」

紫は咲元の背中を見ながら、同じことを考えていたんだと、ちょっと嬉しかった。

「何か見える?」

「いや、暗くて何も。」

振り返ると、咲元は足取り軽く進み始めた。

「昼間は魚が見えるんだけど。」

遊園地や港のきらめきを周りながら、自然に足はホテルへと向いていた。

「いい?」

紫も抵抗なく頷いた。言葉少なに二人は手を繋いだ。

スムーズに部屋へと入り、優しく服を脱がせながらキスを交わす。髪を撫で、身体を撫で、そっとベッドへ寝かす。その一つ一つの仕草は手慣れており、心地よかった。シャワーをあびたかったが、そんな感じでもない。さらりと下着姿にされた。

咲元は手早くルームライトを仄暗くすると、自身も脱いだ。紫はぼんやりとされるがままになっていたが、うっとりしていたわけでもない。どこか冷静に観察していた。なんとなく、我が身に起こっていることではないような…間違いないなく自身のことなのだが。

すっかり裸になると、胸と陰部を愛撫してから、あっさりと入ってきた。咲元らしいというか、しつこくない。セックスまで爽やかだ。まあ相手が私だから…。

紫は初日の仙台の部屋で聞いた情熱を思い出さずにいられなかった。あんな真似、できっこない。

咲元はシャワーを浴びるとビールを飲みながら身支度を調え始めた。何故だろう、セックスしたばかりだと言うのに、イラついているようだった。

 

「大人の恋愛ピックアップ記事」の次回更新は9月14日(日)、12時の予定です。

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