【前回記事を読む】【運命の出会い?】他の女性と旅行していた彼に恋をした私――不安と希望が交差する“大人の恋”に親友が放った言葉は…

冬隣

約束の時間ちょうどに咲元は現れた。田舎の自然の中で会った時と雰囲気が違って、スマートだった。

「紫さん、お待たせ。」

「咲元さん。」

素直に嬉しかった。来てくれた。私に会いに。ずっと、どうでもいいような扱いを受けていた私を、真っ直ぐ見つめて優しく微笑む咲元は、まるで…。

「少し涼しいね、仙台はもっと寒かったよね。晴れて良かった。さあ、とりあえず行こうか。」

みなとみらいを周り、ランチしながら、お互いの家族の話になった。

「うちは普通だよ、弟が地元にいるから僕は好き勝手できるかな。親には自覚ないのかも知れないけど、弟のほうが可愛がられてたし、本人たちはそんなことないって、言うんだけどね。別にいじめられたわけじゃないけど、いちいちお兄ちゃんなんだからって言われて、我慢は多かったかな。この年になると結婚結婚って言われるし、金沢は嫌いじゃないけど、特に帰りたいとも思わないな。盆暮れで十分だ。もうそんなに帰って来いとも言われないしね。」

「そうなの、私も兄がいるけど、異性で年も離れてるからあまりしゃべらなかった。同性の兄弟が羨ましかったけど、みんながみんな、仲良いわけじゃないものね。うちは跡取りの兄がいれば私はいなくていいみたいだし、私も帰りたいとは思わない。」

「そうなんだ。お兄さんは結婚してるの?」

「ええ、こないだ二人目が生まれたの。弟さんは?」

「うん、こっちはもうすぐ生まれる。一安心だよ、当分子供に夢中だろうからさ。」

なんだか似てる点があることが嬉しかった。

あの彼女のことを聞きたかったが、話題に出せずにいた。そういう話になれば自分の恋愛歴も語ることになる。ろくな経験のない自分と、豊富そうな咲元の間にはしにくかった。その話題は避けて家族や学生時代の話から、仕事の話に移った。

「実は早速行った面接、2つあるんだけど一つ受かったの。」

「そうなの、早いね。良かった、安心だね。」

本当に、思ったより早く決まったものだ。まあ一つは落ちたのだけど、こんなにスムーズに決まるとは紫も驚きだった。そしてそれは、きっと自分がウキウキしているからなんだろうと、漠然と感じていた。

前職場でも実家でも、私は明るい子じゃなかった。学校ではそれなりに普通だったと思うが、そういう雰囲気が、大事なのかも知れない、とぼんやりと思いながら、紫は咲元との会話を楽しんだ。さすが営業ということだろう、トークが上手い。かかさない笑顔も心地よい。自分も明るい咲元と話してて惹かれたのだから、こういうところ、見習わないと…。

「じゃあ次に行こうか。」