希恵は、そんなヨシオの後かたづけを、もくもくとつづけていた。

ヨシオは、この興奮を連れ出すように校門から出て、家に向かって歩く。魂の余韻は、歩くにつれ薄れていく。何か悔しい。

ヨシオが家に帰り着くころには、余韻はなくなってしまっていた。

家の二階の窓に、夕陽が落ちている。窓ガラスがオレンジ色に反射し、輝いている。ヨシオは玄関を開けると、そのまま階段を上がった。ヨシオの部屋は何も変わっていない。

鞄を机に置くと、いつものように、両手を顔の前に構える。そして、窓から見える風景に、相手を探す。一人、会社帰りの五十歳代の男が、意気揚々と歩いているのが見えた。少なくとも、ヨシオにはそう見えた。ヨシオはガードをしっかりとり、夕陽に逆らうように殴り続けた。そして、蹴り続けた。

日曜日が来た。

ぐっすりと寝た。いい目覚めだ。ヨシオは秋葉原までランニングすることにした。ヨシオの家から一時間走れば秋葉原につく。空手着を着たまま、走ることには抵抗はなかった。

秋葉原駅は日曜のせいか、通りは人で溢れていた。

あちこちに、コスプレの男女がたむろしている。外国人のコスプレイヤーも多い。

ヨシオは空手着で走っていたが、さほど違和感はなかった。空手着もコスプレにさえ見える。ヨシオがランニングすると外国人のコスプレイヤーが「ナイス! お前はケンシロウか?」と聞いてきたので、

「アイ アム ジョー!」と言って、飛び後ろ回し蹴りを見せてやった。

「オー!」という歓声が上がり、「ユー アー グレイト!」とスパニッシュが叫んでいた。

群がる中で、身動きが取れないなか、ヨシオはピンク色で固めた女の子から、スムージーをもらったので、ヨシオはナイスサインを出して、むさぼりながら、女の子の手にキスをして、また走った。女の子がしがみついてきたので、ヨシオはそっと彼女の肩を押して、また、走った。

 

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