29本の赤い薔薇が届いた瞬間、あの日の言葉が蘇った。
私は、一樹のこのサプライズにもちろん驚いたしとても嬉しかったが、それよりもあの日のあの約束を、一樹が覚えていてくれたことに私は深く感動し、一樹と結婚して本当によかったと心の底から思った。
そして「最後の一本はこれだよ」と、あの日と同じ言葉と、あの日と何も変わらないあの表情で枯れない赤い薔薇をくれた。
もちろん、20歳の時にもらったあの薔薇は大切に飾っていた。2本目の薔薇を隣に飾ってみると、あれから本当に10年も経ったんだと込み上げてくるものがあった。そして「次は、40歳だね」と同じ言葉をくれた。
その時〈次こそ絶対に私も覚えているぞ!〉と思ったのを覚えている。
でも現実は、34歳で一人になった私が3本目の薔薇をもらうことは、叶わぬ夢となった。
一樹の写真と共に大切に飾ってある2本の薔薇。
「2本で終わっちゃったね……」と、つい切ない声が出てしまう。
もう私は二度と、一樹からあの薔薇をもらうことはないのだと。
いつも棚に綺麗に並んだ2本の薔薇を見ては、あの時の嬉しさと切なさが混じり、
とても複雑な気持ちになる。
40歳になっていく私を、隣で見ていてほしかった。
一樹を失ってから、彼が私に残した思い出の物たちに、彼にどれだけ愛されていたのか思い知らされる。
それでも私にとって、涙が出るほど特別で大切な宝物であることは確かだ。
素敵な思い出から始まる30代のスタートをくれてありがとう。
次回更新は10月4日(土)、20時の予定です。
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