【前回記事を読む】突然妻を亡くしたことをきっかけに、二人の思い出が残る中国に渡ることにした。隣に座った女性が「タバコを吸ってもいいですか?」と言い...
二
白地のドレスがウエストでくびれると、たっぷりと膨らんで足元を隠す。カラフルな網織りのドレスをその上に重ね着していたから白色が透けて美しい。銀色に金で刺繍した幅広の帯を腹に巻いて、金細工のヘッドバンドをして。
ドレスの上からかけた白真珠、そこに大きな赤と青の宝石のネックレスがダブる。両手に白絹布 (けんぷ)を広げてのストップモーション。
触れなば落ちんといった風情で近づいてきて、首にかけてくれた。ハグはなし。
紅をさした可愛い口元、きっと箸が転んでも笑うんだ。お酒が振舞われる。
ゲルに荷物を運び込むと子供たちに遊びに引っ張り出された。ゲルの中は天幕が日に当たって白く照っていた。高温にならないのは側面の幕を少し持ち上げておき、天幕の頂上の開口部をこまめに開閉して調節するからだという。
居心地がいい。草原の花かな。美しい花柄のジュータン。高さが一メートルもないタンス、木箱、ブリキ製の箱が側面の幕に沿って並べられて、相撲の衣装、馬頭琴、口琴、羊骨双六、ギター、写真を貼ったボード、雑誌、本、絵画、馬具小物、テンガロンハット、銃、刀剣がその上に置かれている。鏡もあった。
このようにゲルの中はカラフルに飾られていてまるで草原の中の竜宮城だ。奥さんが魔法瓶から大きなどんぶりに茶を淹れてくれた。接待はまずこの茶から始まる。飲み干すと注ぎ足す。だから断り慣れないと、最後の一杯分だけ余分に飲まされる。
濃い白濁で栄養があって、アッサリ味。いくらでもいける。彼らは朝食をこの茶とおひねり揚げパンだけで済ますこともあった。
今夜のご馳走にお腹いっぱいでは失礼だからお代わりをしなかった。
奥さんの方も負けてはいない。
「ヨーグルトなら別腹だから」
と砂糖と一緒に持ってきてくれる。
お手本に見習って、砂糖をたくさん入れてよく混ぜる。クリーム状に盛り上がってくるのをスプーンで掬って食べた。おいしい。民度が高い。
女性のヒップに食い込む下着Tバックは和製英語だ。これを北京にかぶせてスケッチしてみる。不謹慎かもしれない。説明しやすいからで、悪気はない。