【前回の記事を読む】 「エア、猫?」――猫が好き。保護猫活動も金銭的に援助してきた。でも、事情があって自分では飼えない。そんな私が勧められたのは…

猫、お好きですよね 松本 エムザ

たっぷりと愛情を注がれたソウル・キャットは、飼い主が生を終える際、共に成仏することができる。まれに愛情が足りず、再び彷徨える魂となってしまう場合もあると聞いていた月子にとって、もなかと一緒に旅立てることは心からの喜びであった。

「今日もどなたかに、猫ちゃんの紹介を?」

譲渡会のスペースで、相変わらず青年はカタログ一冊だけを手にした身軽な姿だ。カタログの中には、彷徨える魂の姿を青年が描いた(お世辞にもあまり上手いとはいえない、だが味のある)、何匹もの猫のイラストがファイルされている。

このカタログのおかげで、月子はもなかと出会えたのだ。一匹でも多くの猫たちの魂が救われるためにも、エア猫が世の中に普及してくれればと、月子は願った。

だが青年は、

「ええ、と言いたいところですが、最近は別件が忙しくて」

明るく返してはくれたものの、その目には鋭い光を宿していた。

突然、近くでざわめきが起こった。激しい口調で言い争う、男女の声が周囲に響く。

「はぁ? なんでこっちが金を払わなきゃいけねぇんだよ」

「血統書もない野良猫でしょ? それを引き取ってあげようって言ってんだから、『金払え』はないんじゃないの?」

派手な身なりのひと組の男女が、保護団体のスタッフに噛みついている。

「話になんないよ。やっぱさっきのペットショップの子にしようよ。あの子の方が絶対映(ば)えるし」「言ったろ? もうローンが組めねぇんだよ。まったく、どの店もすぐ死んじまうような弱っちぃ犬や猫しか寄越さねぇから、金ばっか飛んじまう」

あろうことかケージを足蹴にしてその場をあとにする二人を、驚きと怒りと悲しみで見つめていた月子に、青年の声が冷ややかに届いた。