「ああいう奴らを、懲らしめてやること。それも、僕ができる大切なライフワークかと思いまして」
柏手を打つように、青年が手のひらを大きく打ち鳴らす。ああこの仕草は、月子の眼前でソウル・キャットを出してくれた時と同じだ。だがあの際と違うのは、青年の背中から湧き上がったのは淡く輝く虹のような光の環ではなく、黒く渦巻く暗雲であったことだ。
暴言を撒き散らしながら二人が乗り込んだスポーツカーを、瞬時にその黒雲が覆ったかと思うと、激しい爆音をあげ、車体は瞬く間に炎に包まれた。
「素晴らしいお仕事ね」突然起きた事故に騒然となった会場から、その場には不似合いの感嘆の声を残して、月子ともなかの気配はゆっくりと、光の揺らぎとともに青年の側から消えていく。
車から空に向かって高く立ちのぼった黒煙は、巨大な黒猫によく似ていた。