由記子のように華やかさを求め、都会に住む女は何処にでも居るものだ。手の届かない欲望に近づき、思わぬ怪我をしても仕方がないのだ。叶わぬ夢だとしても掴みたい、そうして今まで生きてきたのだから、これからも変わらない日が続くのだ。幾日が経てば躰の傷も薄れてゆくのを知っていたからだ。
短い冬の一日に毛布で頭を隠しベッドで丸くなる由記子が、ようやく起きたのは午後をとっくに過ぎていた。この日店は休みだったが、どこにも出掛ける予定のない由記子が、気怠そうに見た窓の外は、どんよりとした雲が広がっていた。ふとカレンダーを見た由記子は、あの男との約束を思い出したのか、更に気怠さが増してゆくのを覚えた。
行くべきか行かざるべきか、約束の時間が近づくにつれ、落ち着かない由記子だった。
親切にも介抱してくれた人を裏切るのかと、別の自分が言っているのを聞く由記子は、気の効いた悪女が使う断りの言葉が、何一つ思い付かないのだ。良い人ぶって一度会えば気が済むではないか。その時点で自分の優越感の方が勝っていた。由記子が求めるのは豪華で満足のある贈り物、それは気持ちなどではない物質的なものに違いない。
つまり由記子は物欲しさを胸に隠し、美味しい食事を望んで出掛けたのだ。
目の前に居る男は目に入らず、ただ頷くだけの由記子は、退屈さに帰ることを望むだけだった。今度連れて行きたい所があると真剣な顔の男に、またも断れない理由がはっきりした。由記子の頭に浮かぶのは満たされること。自分を満足させるという期待を胸に、誘われるまま向かった先は、由記子の予想を全て裏切る、思いもしない光景だった。
一軒の家に何人もの人が集まり、宗教団体と思われる光景は、由記子に遠い実家での嫌な記憶が蘇った。知らない人達の満面の笑顔に、気味の悪さを感じ拒否反応から、逃げるように外に出た由記子は、何かの罰でも受けた気分だった。二度と会うことはないと知るが、このタイプの男は遊び慣れた男と違い、自然消滅とはならなかった。
執拗に誘う男に由記子が考えた方法は、この男に相応しいとっておきの策だと笑いを浮かべた。
中小企業で働き夜もバイトをする男に、お金の余裕などないだろう。ならば由記子の居る店に客として呼び、お金を使わせることだ。