【前回の記事を読む】自分と同姓同名の墓。何かを感じ、骨壺を掘り返してDNA鑑定すると…
湖の記憶
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「今回は念のため、もうひとつ検体をいただきたいのですが」
「何を渡せばいいんですか?」
「髪の毛一本で結構です。ただし、毛根が付いた髪の毛が必要です」
サトルは髪の毛を抜きとった。二本抜けて、そのうち一本に毛根が付いていた。
サトルが手渡すと、谷口教授はビニールの手袋で慎重に受け取り、引き出しから出した封筒に入れた。封をしっかり糊付けした後、封筒に今日の日付と自分の名前を書き込んだ。
前回と同じように口腔を綿棒で掻き取った。谷口教授はそれを受け取ると、先ほどの封筒と一緒に奥の金庫に丁寧にしまった。
「これで準備は終了です。今回はいろいろな鑑定方法を試してみるつもりです。結果は二か月後にご連絡いたします。そのときにはまた来ていただかなければならないと思いますが、よろしいでしょうか?」「もちろんです。スケジュールもありますが、こっちを優先します」
「ありがとうございます」「よろしくお願いします」
山口はサトルと一緒に部屋を出た。
「鑑定の件、お金はいらないそうだよ。教授の個人的関心が大きいみたいだから」
「別に金を惜しんでなんかいないよ。ただ事実が知りたいだけだ」
「そうだよな。じゃあまた。今度たまには飲みにでも行こう」
「ああ、お互いに時間が合えばな。それじゃあ」
山口は木枯しの中、サトルの車が門を出るまで見送った。