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「いったいどういうことなんだ?」サトルは研究室に入るなり、机の脇に立っていた山口に問いかけた。

椅子にかけていたハゲ頭の男がサトルのほうに振り返った。男はすぐに立ち上がり、自己紹介した。

「はじめまして。私は東精大学医学部教授の谷口拓郎という者です。遺伝子を研究しています」

「よろしくお願いします」

サトルは谷口教授に勧められた椅子に座った。

「山口君、温かいお茶でも買ってきてくれないか」

山口は谷口教授から千円札一枚を受け取り、部屋を出ていった。

「今回のことは山口君から聞いています。山口君が嘘を言ったとは思いませんが、直接確認させてほしい点がありましたので、本日は森本さんに来ていただいたわけです」サトルが起きた出来事を話そうとしたとき、山口が自販機のお茶を三つ抱えて部屋に入った。

「間に合いましたね」

山口がほっとした声で言った。

「ああ、これから森本さんに話してもらうところだよ」

谷口教授が話を促すように、サトルの顔を見てうなずいた。

サトルは自分がプロのカメラマンで、湖を専門に撮影していること、ある湖に行ったとき初めて行ったにもかかわらず、ここには前にも来たことがあると思ったこと、観覧船に乗ったときある風景を見て、それが小さい頃夢で毎日のように見ていた場所だったことを話した。

「その夢は何歳くらいから何歳くらいまで見ていましたか?」

「たぶん初めて見たのは小学校一年生くらいだと思います。物心がついた最初の頃の出来事でしたから。夢を見ていたのは小学校中学年までかな? 中学受験のために勉強していたときにはもう見ていなかったから、いつの間にか夢を見なくなって、あの湖を見るまではそんな夢のことすら忘れていました」

「なるほど、そうですか」

「オレは不思議に思って湖のまわりを調査しました。そして古いお寺を見つけました」サトルはお茶を二口啜った。

「あっ、話の順番を間違えたかな。実はオレには幼少期の記憶がまったくないんです。まわりの友だちは幼稚園時代のことをみんな覚えているのに、オレには小学生からの記憶しかありません」

「まあ何歳から記憶があるかについては人それぞれで個人差はありますけどね」

「そうなんですか? でも両親だったら普通覚えているでしょう? 子供が一番可愛い頃なんですから」

サトルの声に苛立ちが混ざった。