【前回の記事を読む】「あなたは非常に頭のいい方だ。この施設では毎日若い男女にセックスをしてもらっています」

あなたの子供が生みたかった

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「でも、生まれてきた子供はどうするんですか?」

「そこがひとつの大きな問題でした。今現在は孤児施設に入れて、育て親を募集しています。しかし、もちろんすべての赤ちゃんが育て親を見つけられるとは限りません。今は税金を使って孤児施設で育てています。一定の人数が生まれるまでは続けていくつもりです」

杉原が立ち上がった。

「それでは施設をご案内しましょう」

階段で二階へ上がるとすぐに男女の喘ぎ声が聞こえてきた。

「このフロアと三階が性交室となっています。一室ベッド六台でワンフロア六部屋あります。要するに七十二組の方々がここで性行為を行っています」

美春は目のやり場に困りながらも、杉原の後をついていった。

「四階は妊婦の方の療養所となります」

杉原はエレベーターに美春を乗せながら言った。

四階は医務室とオープンスペース、寝室、食堂に分かれていて、妊婦たちが穏やかな表情で休憩していた。

「医務室では、お腹の赤ちゃんの状態を一週間に一度確認しています」二人は再び階段で五階へ上がった。

「ここが手術室です。ここで出産した赤ちゃんは六階と七階で養育しています」五階にいる時点で赤ちゃんの元気な泣き声が聞こえている。

「見てみますか?」

「いいえ、結構です。大体の流れはわかりましたから。まるで子供を作る工場みたいですね」

「二歳の誕生日にそれぞれ契約している孤児施設へ子供たちは移されます。ここでの記憶を残さないためです。それでは一階の事務室に戻りましょうか」

事務室に戻ると、美春が杉原に尋ねた。「セックスする相手はどうやって決めるんですか?」

「基本はお互いの同意を元に決めます。例えば早川さんがご主人としたければ、ご主人の同意によりカップルが成立するわけです。これがあなたの希望でしたよね」

「はい、もちろんです。見ず知らずの人とする気にはなれません」美春は一番大事なことを聞いた。

「つまりは私が死ねば夫とカップルになれるわけですね?」

「もちろん相手の同意が必要ですが、早川さんの場合は新婚ホヤホヤなので、たぶん大丈夫でしょう。他に質問がなければ、以上で終わりにしますが」

「私たち夫婦に子供ができても、一緒に暮らせるというわけではないのですね」

「はい、死者と生者の境目ははっきりと区分されています」

「少し考えさせてください」

美春が言うと、

「よく考えてから決めてください。あなたの大切な命の話ですから」

杉原と入口で別れると、バスの運転手がバス停で待っていてくれた。