【前回の記事を読む】二階へ上がるとすぐに男女の喘ぎ声が聞こえてきた。「このフロアが性交室となっています。」目のやり場に困りながら、男の後について歩くと…

あなたの子供が生みたかった

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料理がテーブルに並んだ。ポークステーキにポテトサラダ、オニオンスープにデザートのケーキまであった。美春にとっては達也がいなくなってから、こんな豪勢な夕食は初めてだった。

「すごい。いつもこんな夕食作ってるの?」

「なわけないじゃない。今日は特別。美春宅外泊記念日だから」

「おおげさすぎるよ」

「まあ、食べて。こう見えても料理には自信があるの。いつでもお婿さん受け入れオッケーなんだけどね」

「いろいろありがとう。じゃあ、いただきます」

「紅茶を入れるわね」

食後のデザートを食べる前に美春が言った。

「駄目よ。今日は美春はお客様なんだから」

「本当は私がやらなきゃいけないのに」

「いいの、いいの。もし私が病気になったらお返ししてくれればいいから」

ダブルベッドに二人で寝た。

「ねえ、そういえば幽霊バスの件はどうなったの?」沙也加が聞いた。

「えっ。ああ、あの件ね。結局何もわからずじまいだよ」

「なんだ、つまらない。じゃあ、明日見に行こうよ」

「でも、あれからバスは一度も見てないよ」

「構わないよ。どうせ会社に行く途中なんだから」

そう言われて断りきれなかった。杉原は普通の人には見えないと言っていたから、まあ何も起きないだろう。

その夜、美春は久しぶりに熟睡した。

次の朝、二人は停留所に七時前に到着した。沙也加が見逃したくないからと美春を急かしたから。

沙也加は機嫌よく、幽霊バスについていろいろな質問をしてきたが、

「最近は見てないし、たぶん来ないと思うよ」と適当に答えた。七時二分、バスがやってきた。

「あっ、バスが来たよ」美春が思わず言った。

「えっ、どこ? どこにもないじゃない?」

沙也加が不思議そうに聞いた。しかし、美春は沙也加の言葉をまったく聞いていなかった。

「達也が乗ってる」

美春は走り出そうとした。

「行っちゃ駄目」

沙也加が美春の腕をつかんだ。

「どうして? だって達也がいるんだよ。達也に会えたんだよ」

「美春は病気がまだ治っていないの。バスだってないし、達也さんだっていないわ」

「達也は知らない女とセックスするんだよ」

「何をわけのわからないこと言ってるの。何もないんだよ」

必死に止める沙也加の腕を振り切って、美春は停留所まで走っていった。沙也加がすぐに追いかけたが、停留所の前で突然美春の姿が消えた。

沙也加は呆然と立ちすくんだまま、見えないバスの行方を目で追うことしかできなかった。

その日から美春は会社を無断欠勤した。