【前回の記事を読む】車は夫をはねた後も暴走し、電柱に正面衝突して即死した。お腹の子は流産し、1度の事故で家族を2人失った。
あなたの子供が生みたかった
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じゃあ、あのバスはどこの会社のバスだったのだろうか? もしかしたら市立病院に勤めている人専用のバスということもあり得る。定期券のように見せていたのは社員証だったのかもしれない。でも、市立病院は閉鎖されたと沙也加が言っていた。ネットで確認してみると、やはり市立病院は四日前になくなっていた。
“よし、とことん調べてやろう”
それから美春は、休日には七時二分のバスに乗った。バスの中のメンバーは変わっているものの、いつも青白い顔をした若い男女が乗っているのだけは変わらなかった。
美春は乗客に話しかけたが、相変わらず美春の存在など無視するように、無表情に前を真っ直ぐ見ているだけだった。次に美春は、運転中にもかかわらず、運転手を質問攻めした。
「なぜ自分だけ終点で降ろしてもらえないのか?」
「乗客はみな毎日どこに行くのか?」
「なぜもう閉鎖されたはずの市立病院前行きという表示を変えないのか?」
「そもそもこのバスはどこが運営しているバスなのか?」
しかし、やはり運転手も美春を無視し続けた。もちろん終点では降ろしてもらえず、結局は自宅近くの停留所で降りるはめになった。
美春はあきらめなかった。何度も何度もバスに乗り、乗客や運転手にしつこく問いかけた。
ある日、バスに乗ると、初めて運転手が美春に話しかけた。
「上司があなたとお話したいそうです。ご案内しますから、今日は終点で降りてもらいます」
どうやら美春の粘り勝ちのようだ。美春は疑問を解明できると信じ、他の乗客に笑顔を向けた。やはり乗客は一人もその笑顔に応えなかった。
終点に到着すると、まずは他の乗客が降ろされた。全員が閉鎖されたはずの市立病院へ入っていった。
「市立病院は閉鎖されていないんですか?」美春は運転手に問いかけた。「それも含めてお話ししますので、事務所までご足労いただきます」美春は運転手に連れられて、市立病院へ入った。