そして一夏は人目も気にせず大声で泣いて、梨杏の名前を何度も呼んだ。崩れ落ちるように泣き続ける一夏の背中を海智はいつまでも擦っていた。
火葬場で骨上げまで手伝った二人はその場で金清と別れた。
「金清さん、これからどうするんですか」
「ああ、まだおふくろの面倒も見ないといけないからね。再就職先もこの町で追々探すよ」
「それではお元気で。またお会いしましょう」
「ああ、君達も幸せにな」
二人は火葬場を後にした。金清は二人の背中をいつまでも見送っていた。
「ねえ、海智」
「うん」
「梨杏が生きていたら私達三人すごくいい友達になれたと思うの」
「ああ、そうだね」
「梨杏の命日には毎年お墓参りしようね」
「うん」
「でも一度でいいから梨杏と話がしたかった」
「そうだね」
その後、一夏は一言も口をきかなかった。海智はそのまま彼女と別れて一人帰宅した。
それから半年の月日が経った。海智は以前よりだいぶ体調を取り戻していた。彼はこの半年間、この事件をノンフィクションとして書き上げて、一躍時の人になるべく日夜健筆をふるっていたが、先日、馬鹿馬鹿しくなって原稿を丸ごとゴミ箱に捨ててしまった。